第90章 女の勘は結構当たる。
銀時は葵咲の頭上に、先程一郎兵衛から譲り受けた傘を差す。
(葵咲:え?まさか…!)
急に雨粒が当たらなくなった事で、わずかな期待の灯を灯してしまう葵咲。葵咲はバッと顔を上げて、傘を差す人物を見上げた。
葵咲「あ…。」
銀時「こんなところで何やってんだよ。風邪引くぞ。」
葵咲「銀ちゃん…か。」
銀時「・・・・・。」
期待に満ちた表情は一瞬で暗く沈む。その表情の変化から、葵咲が何を期待していたのかはすぐに分かった。『ヅラじゃなくて悪かったな。』そう言いたい気持ちもあったが、今の葵咲にそんな言葉は掛けられない。銀時が複雑な面持ちで押し黙っていると、葵咲が立ち上がり、またもや強がりの笑顔を浮かべた。
葵咲「ちょっと躓いただけ。大丈夫、大丈夫だから。」
銀時「俺の前では無理すんなっつっただろ。」
葵咲「・・・・・。」
今その優しい言葉は心に突き刺さる。葵咲はきゅっと胸元で両手を結び、視線を反らした。そして橋の欄干へと手をつき、ゆっくりと口を開く。
葵咲「フラれちゃった。…分かってた。太郎ちゃんの目には私なんか映ってない事ぐらい。分かってたんだけどなぁ。心の準備はしてたけど、ダメージに耐えられるように、フラれるシュミレーションもしてたんだけど…。やっぱりキツイや。」
銀時「・・・・・。」
雨は変わらず真っすぐに葵咲達目掛けて降り注ぐ。先程までは雨に濡れていた事で雨の雫か涙か分からなかった水滴も、傘を差している今も乾かない事実が、それが涙だと証明する。
暫くの間銀時は、何も言わず、涙を流す葵咲の傍らに静かに寄り添い、ただただ川の濁流を眺めていた。