第90章 女の勘は結構当たる。
北斗心軒から離れ、そうして葵咲が辿り着いた先は川の橋の上。ここで足を止めてふと振り返る。
(葵咲:追い掛けて来て…くれるわけない、か。私、何を期待してたんだろう…。)
ここまで走って来るのに全力で走ってはいなかった。それは心のどこかで桂が追い掛けて来てフォローしてくれるのではないかと期待していたから。桂も追い付けるぐらいの速度で走っていた。
だがそれも虚しく、橋の上でポツンと佇むは葵咲独り。先程まで必死に堪えていた涙が、堰を切ったようにどっと溢れ出した。
葵咲「ふぇっ、うぅ。うっ…。」
葵咲は両手で顔を覆い、その場にしゃがみ込んだ。
そうして間もなく、ポツポツと雨が降り始め、それはすぐにザァッという大雨へと変わった。
雨の中、葵咲は立ち上がる気力もなく、その場にしゃがみ込んだまま。。ただただ雨に打たれた。
そんな葵咲を銀時と一郎兵衛が見付ける。だがしゃがみ込む葵咲を前に、すぐに駆け寄る事は出来ずに足が竦む。一郎兵衛の準備していた傘を二人で一つ差しながら。
そして銀時は一郎兵衛に肘で小突く。
銀時「お前の出番なんじゃねーの。」
一郎「・・・・・。」
葵咲の様子をじっと見つめていた一郎兵衛は、きゅっと眉根を寄せた後、フイッと視線を下に落とす。
一郎「…お前に任せる。」
そう言って一郎兵衛は持っていた傘を銀時にスッと押し付け、踵を返して歩き出そうとする。銀時はそんな一郎兵衛の肩を掴んで呼び止めた。
銀時「ちょ、おい!」
『無責任な事をするな。』、『ちゃんと最後まで責任を持て。』そんな言葉を投げようとした。だが、苦渋の表情を浮かべる一郎兵衛を見て、銀時はそれらの言葉を飲み込んだ。
一郎「出来ねぇよ。出来るわけねぇだろ…。だってこの原因作ったの俺だぞ!…どのツラ下げて行けるってんだよ…!!」
銀時「お前…。」
次に銀時が何か言葉を掛けようとするよりも先に、一郎兵衛は半ば強引に銀時に傘を押し付け、雨の中歩き出した。
銀時「あ、おい!!…ったく。」
一郎兵衛の事も気掛かりではあるが、葵咲の方が放っておけない。銀時はフゥとため息を吐いて、葵咲の傍へと歩み寄った。