第90章 女の勘は結構当たる。
一郎兵衛は説明する気にもなれず黙ってしまう。それを見た山崎は小さくため息を吐いた。
山崎「ま、この様子なら明日には元通りですね。俺は様子見て桂の件だけ副長に報告します。あぁ、話がややこしくなりそうなんで、惚れ薬の件はここだけの話に。それじゃ。」
立ち去る山崎には目もくれない二人。銀時達はなおも心配そうに葵咲の方をじっと見据える。相変わらず桂も葵咲の心情には気付いておらず、いつもどおりの会話を続けていた。
桂「葵咲も一緒に食べて行くか?」
葵咲「あ、ごめん、私は今日は…。そろそろ仕事に戻らないと。」
桂「そうか。」
葵咲「幾松さん、今度また改めてお邪魔させてもらいます。」
幾松「ああ、うん。いつでも来なよ。ラーメン、ご馳走するから。」
深々と頭を下げる葵咲に、申し訳なさそうな顔を向ける幾松。それを見た葵咲はニコリと笑い、その場から逃げるように走り去った。
限界だった。
そんな葵咲の背を見送った後、幾松は桂の背中をバシッと叩く。
桂「!? なんだ幾松殿、いきなり何をする!」
幾松「鈍感も時には罪になるって事!」
桂「?」
幾松「…ん?」
銀時「あっ。」
ふと幾松が視線を反らした際、電柱の陰からそっと様子を伺っていた銀時とバチッと目が合ってしまった。逃げ場のない銀時は仕方なく、ボリボリと頭を掻いて幾松達の傍に歩み寄る。勿論、一郎兵衛も一緒について来た。
幾松「銀さん達もあの子の知り合いかい?」
銀時「ああ、まぁな。」
幾松「悪いんだけど、フォロー、お願い出来ないかな?ちょっとやらかしちまった。」
銀時「・・・・・。」
銀時は複雑な表情を浮かべながらも黙って頷いた。一人状況を把握出来ていない桂は、銀時と幾松とを交互に見ながら、目を丸くしている。幾松としては、本当は桂に葵咲を追い掛けに行かせたいところ。だがこの様子の桂では、無神経な一言でまたもや葵咲を傷付け兼ねない。だから銀時にフォローを頼む事にしたのだ。
桂「なんだ、何の話だ?」
幾松「アンタはいいから店に入ってな。」
またもや幾松にバシッと背中を叩かれ、半ば無理矢理店内に押し込まれる桂。頭に疑問符を浮かべながらも、特に追及はせずにいつも通りカウンター席へと腰掛けた。