第90章 女の勘は結構当たる。
ズキン。
葵咲の胸はその言葉に刺される。一瞬で色を失う葵咲には気付かず、桂は淡々と続けた。
桂「だが自慢の幼馴染だ。実の妹のようにさえ思っている。」
(葵咲:妹・・・・か。)
決して悪くはない評価。だが今の葵咲には堪える一言だった。葵咲はきゅっと下唇を噛んで俯く。そんな葵咲の様子を見て幾松は『しまった…。』と心の中で先程の自分の発言を後悔する。フォローに出たつもりが逆効果となってしまった。
山崎「うわ…キツ…。惚れ薬の効果で惚れてるとはいえ、葵咲ちゃん大丈夫かな。あんな一刀両断…。」
恋愛経験の乏しい山崎にもその辛さは分かった。いや、多くの片想いを経験しているからこそ、相手から異性として見られていない事の辛さが分かるもの。そんな厳しい今の状況を見た山崎は口元に手を当てながら葵咲へと心配そうな顔を向ける。
桂「紹介がまだだったな。この北斗心軒店主の幾松殿だ。彼女は女手一つでこの店を切り盛りしていてな。ここの蕎麦は絶品だぞ。」
幾松「うちはラーメン屋だっての。」
桂に対してツッコミを入れながらも、心配そうにチラリと葵咲の様子を伺う幾松。葵咲は俯いて表情を隠しながら、必死に己の心と闘っていた。
(葵咲:泣いちゃダメだ。泣いちゃダメだ。出てくるな、涙。出てくるな、涙。出てくるな。出てくるな。出てくるな・・・・。)
少しの間の葛藤の末、葵咲はスッと顔を上げた。
葵咲「初めまして、市村葵咲と申します。」
銀時・一郎「!!」
幾松「・・・・っ。」
それはいつもと変わらぬ、普段通りの笑顔。“いつもどおり”を装う葵咲を見て、銀時と一郎兵衛は言葉を失った。心臓をギュッと掴まれた感覚だ。だがそんな葵咲の“強がり”に気付いていない山崎は、きょとんとした顔を浮かべる。
山崎「あれ?案外普通ですね。もう薬の効き目切れてるのかな。」
一郎「そんなんだからアンタ、モテねーんだよ。」
山崎「何なんですか!いきなりィィィィィ!!」
状況を把握出来ていない山崎は激昂するが、一郎兵衛の静かな苛立ちは最もなものだろう。一郎兵衛からすれば、長い時間(少なくとも一郎兵衛よりは)一緒に過ごしているのにも関わらず、彼女の強がりに気付かず、内なる哀しみも見抜けない間抜けな監察。そんな山崎に腹が立ったのだ。