第90章 女の勘は結構当たる。
葵咲は北斗心軒を外からじっと眺めるも、入ろうとする気配はない。
一郎「入らねーのかな。」
山崎「中の様子を覗ってるみたいですね。」
その時、ちょうど葵咲の背後に人が近付いてくる気配が。
幾松「別に買い出しぐらい一人で行けるってのに。」
桂「こんな重い物を一人で持たせるわけにはいかん。」
葵咲「!」
店にばかり注意を払っていた為、反応が一歩遅れた。桂の声が聞こえて慌てて振り返るも隠れる場所はない。いや、反射的に振り返ってしまった事で、逆に運悪く桂と目が合ってしまった。
桂「葵咲?」
(葵咲:しまった…!)
バッチリ目が合い、逃げ場もない葵咲。これはもうこの場にいる理由言い訳を取り繕うしかない。葵咲はしどろもどろになりながら、慌てた様子で両手を振る。
葵咲「あ!こ、これは違うの!あの・・・・!」
そこまで言いかけたところで、桂の隣にいる人物に目が止まった。桂の隣を歩いていたのは幾松。同行者が女性である事に、葵咲の胸はざわついた。
桂「ああ、そうか。お前もこの北斗心軒が気になって来たんだな?」
葵咲「あ、いや…。」
天然な桂の思考により変な疑いを掛けられずにすみ、むしろ助け舟を出してもらえたと言える状況。だが何て答えたら良いのか分からない。幾松はいつもどおり仕事着である為、明らかに桂とデートといった雰囲気でない事は確かなのだが、葵咲の中の懸念は膨らむばかりだった。
そんな浮かない表情を浮かべる葵咲を見て、幾松は何かを察したように目を見開く。そしてウインクしながら桂を肘で小突いた。
幾松「! なんだい。こんな可愛い彼女がいるなら紹介してくれたら良いのに。初回ぐらいラーメンご馳走するよ。」
葵咲「えっ!あ、いえ!彼女だなんて!」
葵咲の態度を見た幾松は、自分達が恋仲、もしくは自分が浮気相手であると勘違いされたと思い、そうでない事を、幾松自身は桂に何の感情も抱いていない事をアピールしたのだ。幾松なりの粋な計らい。そんな彼女の温かい対応に葵咲は顔をボンっと真っ赤に染め上げる。だがここでも桂は空気を読まずにいつもの返しをした。
桂「彼女じゃない、幼馴染だ。」