第90章 女の勘は結構当たる。
全く予期していなかった願い事に、思わず口から言葉が飛び出る。それを聞いた桂は顔を上げて葵咲の方へと目をやった。
桂「ん?」
(葵咲:しまった!声に出てた!覗き見ちゃった事がバレる!)
人の願い事をこっそり覗き見する行為は、決して好感度の上がるものではない。そのあたりの神経が過敏になっているだけに、葵咲は慌てて両手で口を塞いだ。だがその事に関して桂は気にしていない様子。自らが書き上げた短冊を手に取りながら笑顔を見せた。
桂「ああ、俺の行き付けの店でな。蕎麦が上手いんだ。」
葵咲「北斗心軒ってラーメン屋じゃなかったっけ?」
北斗心軒に足を踏み入れた事のない葵咲だが、パトロールで何度か前を通りがかった事はある。店構えはラーメン屋だった。蕎麦があるとは思えない。そんな葵咲の質問に対して桂は手元の短冊から視線を移し、真剣な眼差しで葵咲を見据える。
桂「俺はラーメンよりも蕎麦派だ。」
葵咲「いや、太郎ちゃんの嗜好の話じゃなくて。」
素でツッコむ葵咲に対し、桂はそれに応えるでなく再び短冊へと視線を落として話を続けた。
桂「味に間違いはないのだが、まだそこまで知名度は高くないからな。今度葵咲も連れて行ってやろう。」
葵咲「う、うん。」
今までに見せた事のない優しい表情を見せる桂。いや、葵咲にはいつも優しい態度を取ってくれる桂だが、いつものそれとは違う雰囲気に、葵咲は何かモヤモヤしたモノを感じた。