第9章 一番風呂が一番良いとは限らない。
そして約一時間が過ぎた頃、ようやく隊士達は全員、風呂場から出て行った。静まり返った風呂場で、土方は声を漏らした。
土方「よ、ようやく出て行ったか。」
何とか理性は保てたな…。そう思いながら葵咲を下ろし、念の為にドアの隙間から風呂場を覗き見て、誰もいない事を確認してから二人はシャワールームを出た。
葵咲「あの、本当にごめんなさい。」
土方「別にいいって。お前は悪くねぇだろ。」
葵咲「ありがとう。」
そう微笑みかける葵咲を見て、土方はドキッとした。折角ここまで持たせた理性が一瞬で吹っ飛びそうだった。
土方「ばっ!くだらねぇ事言ってねぇで、のぼせる前にさっさと出るぞ!!」
理性を保つ為、そして照れ隠しで言っただけなのだが、その台詞を真っ向から受け止める葵咲は、ショックを受けた。
葵咲「のぼせるって…くだらないって…。(ガーン)」
土方「なんでお前が凹んでんだよ。」
二人が風呂場から出ようとしたその時、風呂場の戸が開いた。そしてそこに立っていたのは、局長の近藤勲、そして一番隊隊長の沖田総悟だった。
近藤「え。」
総悟「え。」
土方「え。」
葵咲「…あっ。」
近藤は葵咲を見るやいなや、鼻血を吹いてその場に卒倒する。他には誰も居ない風呂場から二人で、しかもタオル一枚の状態で出ようとする土方と葵咲を見て、総悟は完全に誤解した。
総悟「土方ぁ~…てめぇ~・・・・。」
沸々と湧き上がる怒りを隠せずに表に出す総悟。
土方「まっ!待て総悟!違う!これには訳があんだよ!先に風呂場にいたのはだな…」
慌てて弁明しようとする土方だが、そんな土方の言葉など耳に届いてはいない。
総悟「何やってんだァァァァァァァ!!!!!」
土方「誤解だァァァァァァァ!!」
土方に何も言う隙を与えず、飛び掛る総悟だった。