第89章 恋をしている時は、全てにおいて奇跡や運命に紐づけてしまう。
そんなエリザベスの心配性の親心(?)も突破し、葵咲と桂は再びデートへ。
次に待つのはトンネルのような通路。上も横も全面ガラス張りで、海底を歩いている感覚を味わえる空間だ。
葵咲「わぁ~凄い…海の中にいるみたい!ねぇ見て!あの魚!初めて見た!」
水族館自体初めて訪れる葵咲にとっては感動の空間。上を眺めながらフラフラと歩いていると、葵咲の手荷物に桂がそっと手を掛けた。
桂「荷物が邪魔で見るのも大変だろう。俺が持っててやろう。」
葵咲「! あ、ありがと。」
頬をポッとピンクに染めて俯く葵咲。だがそれも直ぐに先程の歓喜の表情へと戻る。葵咲は視界に飛び込んだ魚に目を奪われ、桂の袖を引いた。
葵咲「ねぇ!今、凄いのいた!」
桂「そんなに慌てずとも魚は逃げん。」
葵咲「逃げちゃうよ!あっ!ほら見失ったー!」
残念そうな顔を浮かべながら悔しそうな声を上げる。口を尖らせる葵咲を見て、プッと桂が吹き出した。
葵咲「な、何か笑う要素あった?」
何か恥ずべき行動があっただろうか。愛しい相手の目に映る自分の姿が気になる。慌てて桂へと目を向ける葵咲に対し、桂は首を横に振って笑顔を向けた。
桂「いや、可愛いものだなと思ってな。」
葵咲「えっ!?」
桂から自分に対して”可愛い”という言葉が掛けられるとは!葵咲は顔を真っ赤にして目を瞬かせる。だが桂は、はっはっはっと笑いながら葵咲が期待していたものとは違った言葉を付け加えた。
桂「まるで幼子のようではないか。」
あぁ、そっちか。可愛いという意味合いでも女性として見られている意味合いではなかった。その事に肩を落とす葵咲。だがそんな葵咲には気付いていない様子で、桂は優しい笑顔を向けた。
桂「真選組では気を張り詰める事も多いだろう。時には息抜きも必要だ。疲れた時にはまた、こうして俺を連れだしてくれて構わん。」
葵咲「太郎ちゃん…。ありがとう。」
これは素直に嬉しかった。自分の事を心から気遣ってくれている。女性扱いではないが、子供扱いでもない。一人の人間として見てくれている事に感謝の意を示した。