第89章 恋をしている時は、全てにおいて奇跡や運命に紐づけてしまう。
銀時の要望どおり、一郎兵衛も一緒に女装する事になった。
二人は近隣の店で適当に入手した着物をトイレに持ち込んで素早く着替える。ちなみに銀時はいつものパー子スタイルだ。これで銀時の理想とする形となるはずだったのだが…。
トイレから出て早々、想像していたものとは違った状況に追い込まれる事になる。
銀時「・・・・・。」
「ねぇねぇ、彼女可愛いね~!」
一郎「どうも。」
「背高いね?モデルか何か?」
一郎「役者。」
「役者とかすげぇ!女優さん?」
銀時「・・・・・・・・・・。」
一緒にトイレから出てきたにも関わらず、複数の男性から声を掛けられるのは一郎兵衛だけ。しかもあろうことか、銀時は押しのけられて一郎兵衛が囲まれた。元ナンバーワン花魁の一郎兵衛は、女装しても美しかったのだ。
銀時は立ち止まって一郎兵衛を見据える。一郎兵衛はムスッとした表情ながらも、律儀に男性達に答えていた。
「俺らと一緒に回らねぇ?その方が絶対楽しいって。」
「そうそう、最高の想い出作ってやるし!」
一郎「でも彼女を一人には出来ないので。」
男達のナンパから逃れる為にも銀時を指差して断りを入れる。そう言われた男達は、指差された銀時の方へと目を向けた。そして残念そうな顔を浮かべ、大きなため息を漏らしながら頷く。
「…しゃーねぇ、あのパーマの子も一緒でいいよ。」
「まぁこの際仕方ねぇか…。」
銀時「何この敗北感!!帰りてぇ!今すぐ還りてぇ!!地球(ホシ)に!!」
普通に男二人の姿で飲みに行っても、いつも声を掛けられるのは一郎兵衛だけ。勿論普段声を掛けられるのは女性達からだ。
今回の女装ではパー子女装経験のある自分に軍配が上がるのではと少し期待するも、結果は惨敗。ショック以外の何物でもない。まぁ別に女の姿でモテたい願望はないのだが、何となく銀時は肩を落とした。
仮に銀時が男役、一郎兵衛が女役をしても同じ結果だっただろう。その事も頭を過り、一郎兵衛との付き合いを続けていく上では逃れられない宿命なのだと悟った。