第88章 恋バナを心から楽しめるのはリア充だけ。
そしていよいよ土曜日、決戦の日がやってきた。
桂は拠点としている宿屋で支度を終える。支度といっても、いつもどおりの服装だが。
桂は羽織を着て、エリザベスへと声を掛けた。
桂「よし、エリザベス、今日は出掛けるぞ。」
エリザベス『桂さんだけで』
どうやら今日という日がどういう日なのか、エリザベスも分かっているらしい。分かっていないのは当の本人だけ。
桂は怪訝な顔を浮かべてエリザベスへと向き直る。
桂「どうしたというのだエリザベス、俺達はいつも一緒ではないか。」
エリザベス『今日という特別な日に野暮な真似は出来ねぇよ』
そう言って(そのプレートを上げて?)ゴツ眉の表情に切り替える。そんなエリザベスを見て、桂はハッとなって瞳を大きくした。
桂「エリザベス…。そうだな、葵咲は何か悩みを打ち明けようとしているのかもしれん。多勢で行っては話せるものも話せなくなってしまうな。」
エリザベス『そうじゃなくて…』
どれだけ鈍感なんだ。エリザベスは普段通りの表情に戻して慌ててプレートを上げるも、桂はエリザベスに背を向けて深く目を瞑った。
桂「お前の想い、無駄にはせん。では行ってくる。」
エリザベス『お気を付けて』
これ以上は何も言うまい。いや、言ったところで無駄だ。そう思ったエリザベスは静かに桂の背を見送った。