第88章 恋バナを心から楽しめるのはリア充だけ。
葵咲「今日は沢山話聞いてくれてありがと。じゃあ、またね。おやすみ。」
そう言って葵咲はヒラヒラ手を振ってその場を後にする。本当は女性の夜道の一人歩きは危険という事で、屯所まで送り届ける事を提案した二人。だが、屯所の誰かに見られたら何を噂されるか分からないと、葵咲はその申し出を断ったのだ。まぁ真選組隊内でも上位の強さを誇る葵咲だ。現状攘夷志士の動きに不穏な空気もない為、大丈夫だろうという事で二人は現地解散を受け入れたのだった。
残された二人は葵咲の姿が見えなくなるまで、その背を見送った。一郎兵衛は葵咲が見えなくなると同時に首を項垂れて前かがみになった。
一郎「俺の心が持つかどうか心配…。」
銀時「罰が当たったんだよ。」
惚れ薬などという姑息な手を使おうとした罰である。その言葉は一郎兵衛にグサリと刺さった。
少しの沈黙を置き、一郎兵衛は上体を戻す。そして明後日の方向を見つめながら、気力のない言葉を押し出した。
一郎「あいつ、土曜告るつもりなのかな。」
銀時「さぁな。俺が知るわけねーだろ。」
一郎「もしさ…もし、告ったとして、それを桂(あの男)が受け入れちまったら…その晩、一緒に過ごしちまうのかな。」
銀時「!」
先程、葵咲に“秘密”と言われて一郎兵衛の胸が痛んだのは、この事が頭を過ったからだった。
デート終わりには告白して、上手く行けば一夜を共に過ごすプラン…。もしそのつもりだとしたら、確かにいくら仲の良い二人とは言え、異性の二人には言いづらいプランだろう。
その懸念を聞いた銀時は、カーッとなりながら大声で反論する。
銀時「バカ言ってんじゃねーよ!んなわけあるか!葵咲(アイツ)がそんな尻軽じゃねー事ぐらいお前も知ってんだろ!!それに、仮に告ったとしてもヅラは受け入れねだーだろ。お前もこの間のヅラの脈無し具合見ただろうが。」
一郎「・・・・・。」
悪いイメージばかりが考えを邪魔して前向きになんてなれない。深い沈黙を落とす一郎兵衛は生気を失っている。酷く落ち込んだ様子の一郎兵衛に、銀時は一つため息を漏らし、バシッとその背を叩いて活を入れた。
銀時「ったく、しっかりしろよ。オメーが巻いた種だろうが。責任持ってしっかり最後まで見届けろ。」
一郎「っ。」
言われてキュッと下唇を噛む一郎兵衛。そんな二人に背後から妖艶な声が届いた。