第88章 恋バナを心から楽しめるのはリア充だけ。
居酒屋について席に案内されると、葵咲はソワソワ、うずうず。自分の恋路を話したくてたまらないといった様子だ。だがここでひとまず一杯目の酒を注文する。
銀時と一郎兵衛は一杯目はビール。葵咲はカルピスチューハイを頼んだ。毎日真選組で男勝りに働く葵咲と言えど、嗜好は女の子らしいところに、一郎兵衛はまた惹かれる。
そして店員がその場を立ち去ったところで、葵咲が待ってましたと言わんばかりに恋バナの火ぶたを切った。
そこからの葵咲は止まらない。一杯目の酒を店員が持ってきても途切れる事無く話し続けた。
先日桂に手を差し伸べられてから今に至るまで、自分の気持ちやら何やらについて、事細かく話す葵咲。ツンデレの欠片もないデレデレ状態だ。話の区切りが見えない為、仕方なく葵咲の話は銀時が聞き役となり、一郎兵衛が料理の注文を行なう。
恋する乙女のパワーは凄まじい。食事が運ばれて約一時間が経っても葵咲の勢いは止まらなかった。
葵咲「でね、太郎ちゃんってば私の事気遣って、わざわざ果たし状みたいな手紙届けてくれたんだよ~!確かにこれだったら真選組の誰かに見付かってもデートだなんて思いもしないよね!あ、それから見てみて!●●座の運勢土曜日一位なの!恋愛運も最高潮なんだよー!」
銀時・一郎「・・・・・・っ。」
葵咲「あ、ごめん、ちょっと厠行ってくるね。」
ようやく怒涛の恋バナ攻撃から解放される二人。緊張の糸が途切れたと言ったら良いのか、急に疲労がどっと押し寄せた。
一郎兵衛はテーブルの上に突っ伏し、銀時は背もたれに全体重を預けて天井を見上げる。
一郎「あ~~~~キツイ。何が楽しくて惚れた女の恋バナなんか聞かなきゃなんねーんだよ…。」
銀時「オメーは自業自得だろうが。俺は完全なる巻き込み事故だよ。」
項垂れながらもしっかりとツッコむ銀時。そんなツッコミには答えずに、一郎兵衛はテーブルに突っ伏したまま弱音を吐いた。
一郎「これ、ホントに一週間で元に戻んのか?」
銀時「俺が知るかよ。」
あまりのデレデレ具合に戻る気配など見られず、暗雲が立ち込めているように感じたのだ。それは銀時も同じように感じた。全く出口が見えない。一つの灯りもない真っ暗な洞窟に迷い込んだ気分だ。