第88章 恋バナを心から楽しめるのはリア充だけ。
油断していた。まさか突然踵を返して振り返るとは思っていなかった。
想定外の展開に銀時と一郎兵衛は狼狽する。一方葵咲は自分が尾行されていたとは気付いていない様子。パッと笑顔を灯し、銀時達の傍に駆け寄って来た。
葵咲「こんなところで何してんの?」
銀時「よ、よォ~!奇遇だな。俺らはこれから飲み行くとこだけど?」
一郎「そ、そうそう!新しい店でも開拓しようと思ってさ、大江戸Walker見に来たんだよ~。」
銀時の回答のみでは今この場にいる事の説明がつかない、そう思った一郎兵衛はすかさずフォローに回り、自分達が本屋にいる事について不自然じゃないよう努めた。
二人はガシッと肩を組んで、とびっきりの作り笑いを浮かべる。傍から見れば不自然この上ないのだが、天然の葵咲は気付いていないようだ。葵咲も温かい笑顔を浮かべて二人に言葉を返す。
葵咲「二人、すっかり仲良くなったね。」
一郎「へへっ、まぁな。」
ここは逃げるが得策か。そう思った二人は早々にその場を立ち去ろうとする。だがここで葵咲は何かを思い付いたようにパンと手を叩いて更なる笑顔を二人に向けた。
葵咲「あ、ねぇ!私も一緒に行っちゃダメかな?」
銀時・一郎「!?」
葵咲「二人に聞いて欲しい話があるんだ~!」
一瞬で顔を強張らせる銀時と一郎兵衛。ネタが上がっている。聞いて欲しい話とは、恋バナ以外他にないだろう。二人はくるっと回り、葵咲に背を向けてコソコソと会話を始める。
銀時「スッゲー嫌な予感しかしねぇんだけど。」
一郎「その予感は多分当たってっけど、ここは堪えろ銀、今度のデートの詳細を聞き出すチャンスだ!」
一郎兵衛の提案は悪くない。桂が矢文にて待ち合わせ場所を連絡してきたのは知っているが、内容までは分からない。その情報を入手するチャンスが転がり込んできたと思えばラッキーである。
二人は頷き合って、再び葵咲へと向き合う。