第87章 恋する乙女のバイブルは星座占い。
顔を上げる事が出来ない。目を開ける事さえも。蛇の生殺し状態に、いっそ殺してくれと言いたい気持ちにすらなった。二人のその様子に、銀時と一郎兵衛も固唾を飲んで見守る。ゴクリ。唾を飲み込む音が二人の間で響いた。
唐突な誘い文句に、桂は葵咲をしげしげと見つめている。そしてきょとんとしたその顔つきから、いつもの真面目な表情へと戻して口を開いた。
桂「うん、イイヨ。」
銀時・一郎「!!!???」
想定外の返しに、銀時と一郎兵衛の世界は暗転する。雷に打たれたような衝撃を受けつつ、一郎兵衛は涙目で銀時の胸倉を掴み、身体を揺さぶった。
(一郎:ちょ!銀んんんんん!!どういう事だこれはァァァァァ!!)
(銀時:俺が訊きてーよ!!つーか何だ、あの返事!すげー腹立つんだけど!!!!!)
絶対に断ると思っていた。いや、桂なら『俺とお前は敵だ。行動を共にする事など出来るわけなかろう!お前は敵と言えど、真選組という組織で立派な侍として働いているのだろう。侍がそんな浮ついた態度でどうする。』ぐらいの勢いで一刀両断してくれるとさえ思っていた。
それがまさかの真逆。すっとんきょうな返事に苛立ちさえ覚える。一方葵咲は高揚した気持ちを抑えながら桂の返事に食いついていた。
葵咲「え!?ほ、ホントに!?」
桂「うむ。」
聞き間違いではないようだ。はっきりと首を縦に振る桂を見て、葵咲は歓喜に満ちた笑顔を浮かべる。
葵咲「あの!じゃ、じゃあ!えっと、朝の十時くらいに…えっと、その、場所はー…」
まさかこんなに簡単に承諾を得られるとは思っていなかった為、葵咲はしどろもどろになってしまう。行先や待ち合わせ場所等、まだプランも練ってはいなかった。いや、心のどこかで断られるとさえ思っていた。先走ってプランを考え、妄想にふけるのは楽しいものの、断られた時の落胆は大きい。それ故、考えないようにしていた。無意識のうちに心の防衛本能が働いていたのかもしれない。