第87章 恋する乙女のバイブルは星座占い。
まさかの桂登場に、銀時と一郎兵衛は心の中で『漫画かよォォォォォ!!』と叫ぶ。一方葵咲は、まるで幻でも見ているかのように目を輝かせながら桂を見つめる。これは夢だろうか、そう思ってしまった程だ。そんな好意溢れる視線には気付いていない桂だが、笑顔で葵咲の事を思いやる言葉を投げ掛ける。
桂「奇遇だな。先日は大丈夫だったか?怪我は?」
(葵咲:うわーっ!うわーっ!なにこれ奇跡!?運命!!??祈ったら会えるなんて…!神様が味方してくれてるっ!!)
葵咲がそう思うのも無理のない話だ。会いたいと念じたらそこに桂が現れたのだから。しかも相手は今好意を寄せている男性。“運命”とか“奇跡”というものが存在するのなら、この事に違いないとさえ思った。一方銀時と一郎兵衛は青ざめながらその様子を見ていた。そして苦笑いを浮かべて一郎兵衛が言葉を漏らす。
一郎「マジかよ…。」
銀時「ま、まぁ大丈夫だろ。ヅラだし。」
そう、相手はあの堅物 桂。遭遇したとて大事には至るまい。そう自分に言い聞かせるように頷く銀時。一郎兵衛はあまりの衝撃で銀時の言葉など耳には入っていない。
そして同じく周囲の言葉が届いていないのは葵咲も同じ。奇跡の遭遇で桂の問い掛けは聞こえていなかった。目は合っているのに返事がない。そんな不思議な態度を取る葵咲に、桂は小首をかしげて更に問う。
桂「? どうした??顔が真っ赤だぞ。熱でもあ…」
葵咲「あの!」
心配そうに顔を覗き込もうとする桂をよそに、葵咲はキュッと目を瞑って胸元で拳を作る。そして桂が全てを言い終わる前に葵咲が声を上げた。
葵咲「こ、今度の土曜日…い、一緒に出掛けま…せんか…っ!?」
桂「!」
慣れない発言に、語尾は声が裏返った。その事が余計に恥ずかしい。葵咲は再び目を深く瞑り、湯気が出る勢いで真っ赤になっている顔を下に向けた。心臓は破裂しそうな勢いでバクバク鳴り響き、周りの音はその心臓の音にかき消されている。
(葵咲:あ~~~言っちゃった!言っちゃったよ~~~!!いきなりすぎたかな、引かれてるかな!?困ってないかな~~~~~っ。)