第85章 やましい事は顔に書いてある。

一郎「…ヤベェ！！葵咲！見るなァァァァァ！！」

銀時「？」


だが時すでに遅し。葵咲は前に佇んだ男を見上げ、その顔を瞳に映していた。


葵咲「…えっ？」

一郎「…っ！し、しまった…。」

銀時「え？何？」


酷くショックを受けた様子で項垂れる一郎兵衛。その様子を見た銀時は、状況を理解出来ずにキョロキョロする。銀時が一郎兵衛と葵咲とを交互に見やっていると、葵咲の前に佇んでいた男が、腰を下ろし、サッと手を差し伸べた。その男とは、銀時もよく見知った顔。狂乱の貴公子、桂小太郎だった。


桂「立てるか？」

葵咲「た、太郎ちゃ…！あ、う、うん…。あ、ありがとう…っ。」

銀時「？？」


普段とは違う葵咲の態度。いつもなら昔ながらの馴染みに、ざっくばらんな笑顔を向けるのだが、何故か頬を赤らめもじもじしている。銀時が怪訝な顔を浮かべていると、桂が銀時の方へと目を向け、眉根を寄せて怒りを口にした。


桂「おい銀時、いくら幼馴染のよしみとはいえ、悪ふざけがすぎるぞ。葵咲もいずれは嫁に行く身。女子おなごの身体は大切に扱ってやれ。ではな。」


苦言だけを残し、その場を立ち去る桂。そしてその背を見送る葵咲は、何処か上の空で心ここにあらず。そんな彼女の様子を見て、一郎兵衛は頭を抱えるように額を手で押さえて俯いた。


一郎「・・・・っ。」

銀時「なんだよ、どうしたんだよ？何この空気。」


今なお状況を把握出来ていない銀時は狼狽する。事態を理解出来ている様子の一郎兵衛から話を伺おうと、その顔を覗き込もうとしたその時、葵咲が銀時の前に立った。


葵咲「あの、銀ちゃんを見込んで…、万事屋さんに依頼があります…。」

銀時「あ？」

葵咲「私の…っ！恋のキューピットになって…下さいっ！！」


目をキュッと瞑り、両手を胸元でぎゅっと握りながら、頬を赤らめ訴えかける葵咲のその姿に、一郎兵衛は大きなため息を吐く。


一郎「・・・・ハァ。」

銀時「・・・・・。」


ようやく、なんとなく状況が把握出来た銀時は、大きな叫び声を上げた。


銀時「えええええぇぇぇぇぇ！？」