第85章 やましい事は顔に書いてある。
話が少し逸れてしまったが、入れ替わりの件に関しては銀時を巻き込んでしまった事もまた事実。ここは一郎兵衛が折れて銀時に迎合した。
一郎「んな怒るなよ。オメーにも別途詫びはしてやっから。今度飲みに行ったら一杯くらい奢ってやるって。」
銀時「たった一杯じゃ割に合わねーよ!」
だが、一郎兵衛が銀時に迎合したのは詫びたい気持ちが本音ではない。その本音とは…
(一郎:マズったな…まさかここに銀がいるなんて想定外だった…。)
そう、これだ。
一郎兵衛には今日何が何でも遂行しなければならないミッションがあった。その任務遂行には銀時の存在は邪魔なのだ。今この場で下手に言い争いをして深く関わる事は避けたい。銀時に即座にこの場を立ち去ってもらう為に、適当にあしらったのだ。
一郎「とにかくだ。今葵咲の時間は俺のモンなの。邪魔すんなよ。」
銀時「おい。その飲み物…。」
ギクリ。
銀時から指差され背筋をこわばらせる一郎兵衛。さっさと会話を終わらせようとしていたのだが、銀時はいつもとは違う目と眉の距離が短い鋭い眼差しで、一郎兵衛の手にある飲み物を指した。その事に一郎兵衛は冷や汗を掻く。そして銀時は真剣な表情のまま口を開いた。
銀時「今 話題のタピオカいちごオレじゃねーか。」
(一郎:な、なんだよ、吃驚させんなよ。心臓に悪いなオイ。)
どうやら銀時は一郎兵衛が手に持っている飲み物が気になったらしい。大の甘党の銀時。まだまだ付き合いの短い一郎兵衛ではあるが、その事は知っている。一郎兵衛は自分の企みに勘付かれたのかと思い、ヒヤっとした。だがそれが違うと分かり、内心ホッと胸を撫でおろす。
そして今度もまた適当にやり過ごそうと思ったその時、銀時はスッと右手を前に差し出してきた。
銀時「とりあえず今はそれで手ぇ打ってやるよ。」
一郎「! ダメだ。これは今葵咲に買ってきたんだよ。オメーはまた今度な。」
銀時「良いじゃねーか。タピオカの一つや二つ。ケチケチすんなよ。」
一郎兵衛は心の中で舌打ちをする。そう、“この飲み物”だけは絶対に渡すわけにはいかないのだ。
一郎兵衛は空いている右手でチョイチョイっと銀時を手招きする。銀時は片眉を上げて不思議に思いながらも、一郎兵衛の傍まで歩み寄った。
すると…