第84章 人を陥れようとすると足をすくわれる。
花魁達の話では、物音が聞こえて駆け付けるまでは、ものの10分も経っていなかったとの事。そんな短時間の所業に、土方は言葉を失う。また、襲撃したのは土方の対峙した少年ではなさそうだが、その身なりからして恐らく同じ組織の者の犯行だろう。正直、あんな少年一人でも銀時が苦戦した程の相手だ。今回の手際の良さといい、これは更なる警戒と対策が必要だと認識し、三人は重く暗い表情になるのだった。
そんな三人に近付く影があった。その存在に気付いた山崎は、ふと顔を上げてその者を見やる。そこには葵咲が真剣な表情をして立っていた。
山崎「ん?万事屋の旦那?」
こんな真剣な表情の万事屋の旦那は珍しい、もしやこの一件についてだろうか?そんな事を考える山﨑だったが、そんな山崎には目もくれず、葵咲は土方の方へと呼び掛けた。
銀時「おい!土方コノヤロー!」
土方「あ?なんだよ。今忙しいんだよ。」
この緊急事態に何なんだ。その苛立ちが顔に出ていた。だがそれには構わず、葵咲は黙って土方の傍へと詰め寄る。
そして次の瞬間、葵咲は土方の手を取り、両手でぎゅっと握りながら真剣な眼差しを向けた。
銀時「最近お前の事が気になって夜も眠れねぇんだ。一緒に飯でも食いながら色々腹割って話がしてぇ。頼む。明日俺に時間をくれ。正午に家康像に前に来て欲しい。」
山崎・原田「!?」
ピシッ。
土方は一瞬で石化した。勿論、それを見ていた山崎と原田も目を見開き、大口を開けて固まる。葵咲は真剣な表情から優しい微笑へと変えて土方の手を離した。
銀時「とりあえず、明日は絶対に来てくれ。これはわた…俺の最初で最後の頼みだ。待ってるからな。宜しく。じゃあな。」
そうして状況が全く読めない三人を残し、葵咲は爽やかにその場を立ち去った。そしてその一部始終を電柱の陰から見ていた総悟と一郎兵衛は、声を押し殺しながら現場を見つめる。
総悟「ぶーーーーーっ!!」
一郎「うわー…やっべー…。俺知ーらねっと。」
吹き出してゲラゲラと大笑いする総悟。そしてその隣で一郎兵衛は苦笑いを浮かべていた。