第84章 人を陥れようとすると足をすくわれる。
山﨑から事の成り行きを聞いた土方は、青ざめた様子で咥えていた煙草をポロリと地に落とした。先程までの私情の悩みは一気に吹っ飛んでいる。
土方「リフレインの試作品が無くなった…!?いつだよ!?」
山崎「葵咲ちゃんが寝込んでた日です。」
土方「!?」
そう、事態は土方が思っていた以上に深刻だった。格納場所に困っていたリフレインは、警察内で保管する場所が確保出来るまでの間、吉原の華月楼で保管される事になっていた。それがなくなったというのだ。一刻も早い対応が必要なのにも関わらず、すぐに報告がなかった事に対し、土方は苦言を呈した。
土方「なんで黙ってたんだよ!」
山崎「すみません、襲撃を受けた隊士が目覚めるのに時間が掛かってしまって事実確認が遅くなり…。」
土方「襲撃を受けた!?どういう状況だ?」
ただこっそり盗まれたのではない、それは更なる事態の深刻さを物語っていた。土方は冷静になる為にも一度声のトーンを落とし、先程の驚き、焦り、怒りの含まれた表情を改めた。
それを見た山崎は少し安心したのか、静かに現状について報告を始める。
山崎「華月楼に、マントに白いスーツのような服の男が現れたらしく…。見張りの者がその男に襲われたそうなんです。」
土方「! 色白金髪のボブの男子(ガキ)か!?」
色白金髪のボブの男子、それは華月楼の抗争の際に土方が対峙した少年である。あの時回収しそびれたリフレインを取り返しに来たのか、その推測を立てた土方だったが、山崎は首を横に振る。
山崎「いえ。目覚めた隊士の話ではそういう風貌では…。子どもではなく、背丈は副長くらいの青年?だったそうで。」
土方「そいつの面は?見てねぇのか?」
山崎「襲撃を受けて応戦する前に薬で眠らされたらしく、その影響なのか、顔ははっきりと覚えていないようで…。リフレインは眠らされたその隙に持ち出されてしまったようです。」
襲撃を受けた際、その物音を聞いた花魁達はすぐさま現場に駆け付けた。だが駆け付けた時には倉庫はもぬけの殻。花魁達はすぐさま屯所へと通報してくれたそうだ。