第11章 馴染む、そして
「そうか……では来る日までヒカル、
お主には未来のことは黙っててもらうかのぉ。
もちろんトムにもじゃ。」
少女は戦うことから逃げた。
自分が傷つかないように
自分の知らない未来になる不安から逃げ
自分勝手で吐き気がするようなエゴで
彼女は数十年後に失われる命を見て見ぬふりをすると言ったのだ。
それでいて一方的に知った気になっている人々を救いたいと思っているのだから
全くもって自分勝手なエゴイストである。
『わかりました。
1973年にまた続きをお話しましょう。』
「おおう。随分と長い時間お喋りしてしもうたわ。
友人が心配する前にお行きなさい。」
『はい、失礼します。
おじいちゃん、とっても楽しいお茶会だったよ!』
そう言って少女は部屋から出ていった。
カラになったティーカップを見て老人は呟いた。
「ヒカル…お主は誠に自分勝手じゃのぉ……。」
杖を一振すると机の上には何も残らなかった。
芳醇な香りもいつの間にか消えてしまっていた。
「ヒカル!」
『うわっぁ!リドル君どうしたの?珍しいね。』
少女は部屋から出て暫くすると少年に背後から呼ばれた。
この付近には変身術の老人の部屋しかない。
少年がここらをうろつくのは到底無いことである。
「グランチェ先輩とクリストフ先輩から
あの狸爺の所に行ったって言うから来たんだ。
何もされてないか?」
『心配性だなぁリドル君は。
大丈夫、おじいちゃんとお茶してただけだよ。』
「心配はしてない。
ただあいつはの瞳は油断ならない。
ヒカルも気をつけろよ、
知っていることを利用される。」
『心配してるじゃん……。』
利用しようとしてるのは君でしょ、そう心の中で呟いたのは少女の秘密である。
少女は約1ヶ月と少しがすぎたこの学校生活に
この魔法界に馴染んだ。
そして少女は目の前の現実と近い未来から逃げ出したのだった。
【馴染む、そして】