第3章 【着せ替え人形】
「だって美沙ちゃんてばいっつも地味じゃんっ。ファッションにあんま執着ないのは知ってるけどさ、あんだけ面倒見まくってる癖に縁下君がそれ放置ってのはどーなの。」
「その、はしたない格好してる訳じゃないので。」
「それはそれでいーけどさ、もうちょい可愛い格好させてもいいと思うんだよね。」
「はあ。」
「だからお着替えさせてっ。」
力の頭の中でブチッという音がした。
「絶対に嫌ですっ。」
珍しく力は通話口に向かって怒鳴った。
「うちの美沙は着せ替え人形じゃありませんからっ。」
気づけば背後で澤村や菅原など烏野の他の連中が集まってヒソヒソ言っている。縁下どうしたスマホに向かって怒鳴ったりしてそれが青城の優男が訳わかんねー電話してきたみたいでもしかして美沙ちゃん絡みどうもそうっぽいっスつか着せ替え人形て何の話だよ、などと色々聞こえてきて力はたまったもんじゃないと思う。
「ケチーッ、縁下君のケチーッ。」
「当たり前ですっ、貴方は子供ですかっ。」
「別にセクハラしたりしないのにさ。」
「普段から無断で美沙を抱っこしてるのはどなたですか、着替えさせるなんてとんでもない。」
「ちぇー。」
そんなやりとりをしている間にスマホの向こうで異変が起きた。
「おい。」
「ゲッ、岩ちゃんっ。」
「ゲッてなぁ何だ。ん、電話してんのか。」
「いやそろそろ終わろかななんてさ、あっ、縁下君まったねー。」
音声通話は途切れた。
「お、おい、縁下。」
通話が途切れたスマホを握りしめたまま無表情になっている力を見て成田が恐る恐る声をかける。うつむいていた力はゆらりと顔を上げた。
「及川さんっていい度胸してるよな。影山もそう思わないか。」
まさかの所で話を振られた後輩の影山はいつもは穏やかな先輩の目だけ笑っていない怖い笑顔に震撼する。とんだとばっちりであった。