第3章 【着せ替え人形】
一方、青葉城西側である。
「おい。」
幼馴染の岩泉が背後にオドロオドロしい気配をしょって及川を見つめている。
「部活前だってのに何意味不明な事やってんだてめ。」
「美沙ちゃんお着替えさせてって縁下君に頼んでた。」
真顔で言う及川の背中を岩泉は即刻蹴飛ばした。
「痛いよ岩ちゃんっ、何すんのっ。」
「ウルセーッこのくそったれっ真顔で気色悪いこと言いやがって何がお着替えだっ馬鹿かっ馬鹿なのかっいや馬鹿だなっ。」
「どんだけ言うのさっ。」
「言わざるをえねー俺の身になれっこのボゲがっ。」
うがあああっと喚き散らす岩泉に及川は耳を塞いで目をつぶる。
「もー岩ちゃんまで何想像してる訳、ヤダなぁ。」
「別に何も想像してねーよとりあえずお前が言ってるから嫌な予感しかしねぇんだよっ。」
「ひどい言われようっ。とにかく変なことなんて考えてないもん。それなのに縁下君てばさー、絶対ヤダって。」
「烏野6番のシスコンはともかくこの場合は向こうの言い分が正しいだろがっ、普通に考えて妹に何されるかって思うわっ。」
怒鳴る岩泉に他のメンバーもですよねーと頷く。京谷はやはりロッカーの影から出てこないが首をブンブンと縦に振っていた。
「何なのお前らいつにもましてひどくないっ。」
及川は抗議するがチームメイト達は沈黙する。金田一ですら目をそらしたのだから相当の事態だ。やがて岩泉がポツリと言った。
「京谷、言ってやれ。」
「こっち来(く)んな。」
及川は轟沈した。
更に時間が経った後の縁下家である。
「えーっ、嫌やぁ。」
練習を終えて遅く帰ってきた力に向かって義妹の美沙が関西弁で声を上げた。
「うん、そういうのわかってたよ。俺も本当はあの人にお前の萌えポイント教えたくない。」
力はため息をつく。
「でも及川さんに着せ替え人形される方が嫌だろ。」
「問題外の更に外やん、それ。及川さんどないしたんやろ。」
「俺が聞きたいよ。でも多分このままじゃ引き下がってくれないだろうから、ね。」
美沙はうーと唸る。無茶を言っている自覚はあるので力は苦笑するしかない。美沙はしばし考えた様子を見せてから言った。
「しゃあないなぁ、もう。」
ため息をつく美沙の顔は赤い。