第63章 【烏と狐といろいろの話 その4】
「兄のことを無茶苦茶言われてブチギレてもて、相手の人殴りかけました。」
侑はとてつもなく衡撃を受け、ますます美沙が縮こまる。
マジかあと額に汗を浮かべてしまう侑だが、すぐにハッとする。
「ままコちゃん、手えグーせんといて(手をグーにしないで)。」
わざとなのか無意識なのか、縁下美沙の手が握り込まれている。
はっきり言って繋ぎにくい。
「一人にすなってお兄ちゃんに言われとるし。」
「すみません。」
「ままコちゃんがほんま一途なんはようわかった。」
開かれた手を繋ぎ直しつつ、侑は言った。
ついでに細いのになんかふにっとしとる、可愛いなどと阿呆なことを思っている。
「けど、人妬んでわざわざいじわるしにいかんやろ。」
「いや、それ普通でしょ。って、あ。」
「どないしたん。」
「及川さんに貸し出された時もよう似たこと言われた。私はヤキモチを焼いても相手を傷付けにいく発想はないけど、世の中にはたまに無茶する人もおるて。」
「言われとるやん。」
「で、」
「で、どないしたん。」
「人の悪意に鈍感みたいやから気いつけろと。」
これも痛い思い出だったのだろう、ままコこと縁下美沙は再びしょげかえった。
侑に握られた小さな手から少し力が抜けていった、気がする。
「うんうん、なるほどな。」
日頃相方に"暴言豚"と言われがちな宮侑は頑張った。
熱い風評被害を受けた豚が報われるくらい頑張った。
「結論、ままコちゃんは癒し系。」
「え。」
「はい、決まり決まり。列進んどるから行くで。」
「いやあの、侑さん。」
「さっきから、らしない(らしくない)んちゃうの、ままコちゃん。」
まだためらいがちなままコこと縁下美沙の耳元で侑は言った。
普通の女子なら俗に言うイケメンボイスにときめくだろうが、美沙は思い切りビクウッとするのみである。
後に彼女が語ったところによると、悪気はなかったのだが義兄以外に耳元でやられるのはどうにも落ち着かないらしい。