第62章 【烏と狐といろいろの話 その3】
店に入ると
「いらっしゃいませー。」
明るい女性の声が響き、程なく田中龍之介の姉、冴子が姿を現す。
「お、力に美沙じゃん。って、あーっ。」
「あーっ。」
冴子と一緒に宮兄弟も声を上げる。
「え、ってことはここ」
おそるおそる言う侑に対し
「まあ、そういうこと。」
力はさらりと答える。
「マジでーっ。」
治もやたら騒がしい。
他にたまたま客がいなかったのがまだ幸いか。
「スタイル抜群のお姉さんっ。」
「田中冴子、よろしく。」
「冴子ちゃんっ。」
やたら興奮する約2名に挨拶してから冴子は縁下兄妹と興奮している奴らのお目付け役に向き直る。
「いやあ、龍から話は聞いてたけどさあ。美沙、あんた持ってるねえ。まさか稲荷崎まで引き寄せるとか。」
「こんにちは。ちゅうか冴子さんまで。」
「美沙と一緒にいたら青城やら伊達工やら白鳥沢やらがわらわら来ちゃったの、あたしも見てっからねえ。」
「そんなんあり。」
「美沙、諦めな。事実だし。」
「で、こっちのイケメン君が。」
「ご挨拶が遅れました、稲荷崎高校3年の北信介です。うちの双子がお世話になってます。しばらくこの辺りに滞在することになったのでよろしくお願いします。」
「こっちこそよろしく。もっと気楽にしなって。」
「お気遣いありがとうございます。ところでそこのチョケ2人、いつまでやっとるんや。」
ふいに主将に突っ込まれて、騒いでいた双子がたちまちのうちに大人しくなる。
「すいません。」
同時に冴子に頭を下げる様がかなり面白かったので、美沙は思わずクスクス笑ってしまったが見れば義兄の力も密かに笑っていた。
いい気味だと思ったのかもしれない。
「スマンな、せっかく連れてきてもろて早々に。」
北は言うが、縁下兄妹は揃って笑いが止まらない。