第61章 【烏と狐といろいろの話 その2】
「どうぞ。」
美沙の了承を得た北は早速分厚いファイルを一冊手に取って、めくり始めた。
めくられている絵コンテもどきは、どうしても字が綺麗に書けないタイプの美沙が自分だけわかればいいと思って描いているものだから、はっきり言って雑で汚い。
おまけに北が興味を持ったことに興味を持ったらしき双子が、そのまま先輩の後ろから覗き込んでいる。
見ていいと了承したものの美沙は少し恥ずかしくなり、側にいた義兄の裾を無意識に掴んでいた。
いかがわしいものは一切作っていないのであるが。
当然そんなことは知らない北は真剣な眼差しで1冊目のファイルの絵コンテもどきにいくらか目を通し、間にもう一冊のファイルを開き、最終的に一番新しいファイルを手に取る。
そのファイルの中でも一番上に綴じられた、つまり直近の絵コンテもどきに目を通したところで北はファイルを閉じた。
「ありがとう、ままコさん。」
「どういたしまして。」
「なかなか面白かったわ。」
「えと、つまり。」
どういった意味での面白いなのか、よくわからず美沙は戸惑う。
「ままコさんが動画づくりにほんま一生懸命なんと、進歩してるんがようわかって面白かった。」
「私の絵コンテもどきでそんなんわかります。」
首を傾げる美沙に対し、北は頷く。
「初期はほんまにざっくり絵の配置とか雰囲気とかをメモしてるだけの感じやけど、一番新しいんは最初に全体コンセプトとフォントの指示が入って、シーンの番号入って、何を使うか演出どないするか詳細も入って、一応絵コンテっぽい形になっとる。」
「あれやりたい、これやりたいが増えて覚えれんくなって。それにある程度描いた方が後々楽かなって。」
「自分で気づいて改善していったんやな。」
「いうほどでも。せやけどありがとうございます。」
「ままコちゃんの動画作りが思う以上にガチやった。」
侑がはああと息をつきながら言った。息を止めていたのだろうか。
「なんかめっちゃ英字と番号入ってて訳わからんとこがようけ(たくさん)。」
治も呟き、力がああ、と補足する。