第11章 【鉄壁3年とエンノシタイモウト】
「美沙、どういう事。」
「ふぎゃあああっ。」
横から圧をかけられた美沙は座席から飛び上がりかける。
「何でお前が茂庭さん知ってるのかな。会ったことあるって聞いた覚えがないんだけど。」
目が笑っていない力の笑顔、だらだらと冷や汗が流れる美沙に茂庭もあわてふためく。
「ああああいや縁下君、別に変な事はないんだっ。」
「ホンマやて兄さん、せやから」
「詳しくはこの試合終わってから聞こうか。」
美沙は力なくふぎゃあと呟いた。
そうして観戦中後輩のセッターを自慢しようとしていた茂庭が盛大に滑るわ澤村が気を使うわという少々笑える事を挟みつつも息を呑む試合は終わり、残念ながら伊達工は敗退した訳だが合間にこんなやり取りがあった。
「で、美沙。どういうことかな。」
試合が終わって皆で歩き出しながら力が言う。やっぱり逃げられへんかと思いながら美沙はううと唸った。義兄の笑顔の圧力はいつもおっかない。
「えええ縁下君、別に妹さんが悪いんじゃないんだ、この子のベストの糸が俺にひっかかった事があってそれで知ってるんだよ、んで俺がついお茶に誘っちゃってさだから叱らないであげてくれ。」
あたふたする茂庭の横では鎌先と笹谷が不審そうな目を向けている。
「おい茂庭、今なんつった。」
鎌先の顔つきは一歩間違えればいじめっ子が絡んでいると間違えられかねない。
「誘ったって。」
笹谷は比較的落ち着いているものの顔は驚いている。
「流れでついだよつい、別にわざわざナンパしたとかじゃないからなっ。」
顔を赤くして言う茂庭、一連のやり取りを聞いていた力はため息をついて美沙に目を向けた。
「美沙。」
義妹はうぐっと唸る。
「こっち向きな。」
思い切り明後日の方を見ていた美沙は恐る恐るといった様子で振り返り、力はその頭にそっと手を乗せた。