第60章 【烏と狐といろいろの話 その1】
「ほな俺が行く。」
主将の北信介であった。
「え、北さんがなんで。」
素朴な疑問を呈する侑に沈着冷静な主将は容赦なく言う。
「先方の申し出やろ、監督者同伴って。」
「いやでも流石に北さんに手間かけるわけには。」
侑は笑ってごまかそうとするものの、相手が悪すぎた。
「お前ら」
腕組みをし、それはそれは静かにかつ威厳を以て北は言った。
「さっきアランからもあったけど、こないだの修学旅行のとき、そのままコさんにベタベタして仲間の子らとままコさんのお兄ちゃんにえらい迷惑かけたって話やったな。」
双子は声もなく震え上がった。多分ここで迂闊(うかつ)に口答えをすれば2人とも寿命が縮むだろう。
「それがあったからの条件やろ、どうせ。」
ぐうの音も出ない。
「ええ話やと思うで。お前らはアイドルに会いに行けるし、俺はお前らの粗相を直接お詫び出来るし。」
「お詫びはもうネットで散々してはったやん。」
「なんか言うたか、侑。」
「なんもないですっ。」
「治もなんかあるか。」
「なんもないですっ。」
双子は何かの式典に出るのかと思うほどビシッと姿勢を正した。
「ほな決まりやな。」
北は呟き、ここでふと微笑んだ。
「俺も噂のままコさんに会ってみたいし。」
まさかの発言に双子は固まり、他の連中もマジで言うてんのと言わんばかりに北を見つめるのであった。