第60章 【烏と狐といろいろの話 その1】
「ほら、こないだ俺らが修学旅行で会った烏野の1年の。」
銀島が補足を始めると尾白はああ、と思い出したらしい。
「あの着物嫌いで動画投稿してるいうけったいな(奇妙な)女子か。で、なんなん、とうとう凸するんか。」
「そうらしいです。」
小作が答え、尾白はせやけどと首を傾げた。
「一体何の条件出されたんや。」
ここで双子はやっと尾白の言葉が聞こえたらしい。
「あ、アラン君、聞いて聞いてっ。」
侑が言う。
「ままコちゃんが来てもええけど、監督する人も一緒にって言うてきてん。」
「でないと絶対来たらアカンって、めっちゃ難題。」
治も不満げに言うが
「せやろな。」
尾白にあっさりと言われて双子はズコーッと古めかしい反応を示す。
「なんでっ。」
同時に叫ぶ2人に尾白はブチッとなった。
「なんでも何もあるかいっ、お前ら修学旅行の時はしゃぎ倒してその子と関係者えらい困らしとるやろ言われてもしゃあないわむしろ俺らもうちのもんがごめんなさいやっ。」
尾白に高速で突っ込まれて双子はぶすくれながらも流石に大人しくなる。
「ほなアラン君一緒に来てや。」
侑が言うと
「スマン、もう予定入っとる。」
尾白は打って変わって申し訳なさそうに本当のことを言う。
「えー、ほな大耳さん。」
次に侑は丁度近くで着替えていた大耳練に声をかける。
「俺もアカン、埋まっとる。ほんまは先方の為に行きたいとこやけどな。」
「俺らの為ちゃうの。」
治がボソリと呟くが
「先方への危険回避が先や。」
大耳にすげなく言われて沈黙するしかない。
「ほな、赤木さ」
「ごめん、俺も無理っ。」
懲りずにまた別の先輩に声をかける侑だが、声をかけたリベロの赤木路成から瞬発力抜群の返答をされてこれまた沈黙するしかない。
「詰んだ。」
治が呟いた。
「おいツム、流石にこれ無理やろ。」
「えー、せっかくええとこまで来とるのにー。」
「先方からしたら逆にええんちゃいます。」
「なんか言うたか、理石。」
「やっ、なんもないですっ。」
普段苦労させられている立場で思わず本音を呟いてしまった後輩の理石平介がサササと双子から離れたところでまさかの一声(ひとこえ)が入った。