第60章 【烏と狐といろいろの話 その1】
「とにかく俺は行くっ。」
「俺も行く。」
「サムは来んでええ言うてるやろっ。」
「うっさい、好きにさせろや。」
「うっといわあ。(鬱陶しいわ)」
「ままコちゃんに柄悪いって嫌われとけ。ちゅうか、うっといってお前じじいか、いつの時代のヤンキーやねん。」
「ああ、誰がヤンキーじじいや。」
「やるんか、クソツム。」
「阿呆っ、先輩らが今おらんからって喧嘩すなっ。角名っ、小作っ、手伝う(てつどう)てくれっ。」
「わかったっ。」
「えー、めんどくさ。」
一触即発の双子へ対応しようとする銀島と小作に対し、言葉通り面倒くさそうにする角名だったがふと何かに気づいたようだった。
「行くのはいいとして、向こうさんの許可取れるの。」
途端に双子は静かになった。
角名は畳み掛けるように続ける。
「まずままコさん本人、向こうの親御さんとかは当然として、最大の難関忘れてない。」
双子は、あ、と間抜けな声を漏らした。
「あの妹限定で超ヤバいお兄ちゃん。」
角名の中ではどういった評価になっているのか、ひどい言い草である。
「縁下力君だっけ、許可くれるかな。」
さっきまでの勢いはどこへやら、双子は揃って膝を抱えて仲間に背を向けてコショコショと相談を始めた。
「うっかりしとったわあ。」
「阿呆ツム。」
「お前も忘れとったやろ。それよりどないしょう。」
「普通にお願いするか。」
「サム、まま兄(あに)くんが素直にうんって言うてくれる思うか。」
「思わんな。」
「詰みやないか。」
ここで双子はそろってうーんと唸る。
が、ここで治が何か閃(ひらめ)いた顔をした。
「や、待て。」
「なんや。」
「ままコちゃんに先OKもろたらもしかして。」
「おおっ。」
「ままコちゃんがOKやったらまま兄くんもOKせざるを得んかも。」
「サム、ナイスっ。」
何やら盛り上がりだした双子を見て、角名がちょちょちょ、と呟く。
「なんか阿呆な企み始まった気がするんだけど。」
「おいっ、誰かあいつらより先にままコちゃんに連絡やっ。」
銀島が叫ぶと角名が、スマホを取り出して操作を始める。
「そういや俺、SNSの垢フォローしてた。ええと、あ、今もメッセージ開放してる。」
「それや、角名ナイスっ。」
「ちゅうかフォローしてたんか。」
小作が呟く中、角名は急いでフリック入力をしていた。