第60章 【烏と狐といろいろの話 その1】
そうして宮城県にて縁下美沙―旧姓:薬丸―はいきなりSNSにメッセージが来たかと思えば、それが稲荷崎高校の角名倫太郎からで宮兄弟が襲来、もとい訪問を画策しているという緊急連絡で大いに動揺するのであった。
という訳で、動揺しまくった縁下美沙の次の行動は高速で義兄の部屋に駆け込むことだった。
「兄さあああんっ、えらいこっちゃあああ。」
「どうしたんだ、随分慌てて。」
縁下力は読んでいた本から視線を上げてゆったりと言う。
「稲荷崎の、えーと、角名さんから連絡来てっ。」
「なんで角名君が、どうやって。」
「SNSの垢に来た。」
「ああ、そういやフォローされてたな。それで内容は。」
「宮さんズがっ、私んとこ来るって画策してるってっ。」
「画策。」
「言うとくけどほぼ原文ままやからね、私いちびって(ふざけて)へんから。」
「修学旅行で散々弄ったのに飽き足らず、困ったもんだな。」
「ちょお兄さんっ、顔顔っ。」
義兄の力の顔から表情がなくなっていた。
しかも例によってどす黒いオーラを感じる。
「と、とりあえずどないしょう。」
「お前の気持ちは。俺はお前がいいなら構わないよ、条件付きだけど。」
「私なんかの為にわざわざ来てくれはるんは嬉しいけど、意図が謎過ぎるんと宮さんズもすぐ抱っこしようとするんは困る。」
「意図が明確になることと、及川さん並のセクハラをしないことが約束出来たらOKってことだな。」
「及川さんはセクハラの標準木(ひょうじゅんぼく)なん。」
「毎度毎度お前に会う度アレだから。」
「ちょい可哀想かも。」
余談だがこの時及川は自宅でくしゃみをしていて、嫌だな夏の花粉症かな、などと思っていた。