第59章 【王者の恩返し】 その6
「ほんで及川さんは」
ここで美沙はやっと及川が自分を覗き込んでいることに気づき、一瞬ビクッとした。
察した義兄が及川の片腕を引いて無言の抗議をするが、及川本人はお構いなしである。
「うん、で、俺は。」
とてもワクワクテカテ力した様子で及川は先を促した。
美沙はこの人大丈夫やろかと思いながらも続きをロにした。
「淒くチ一ムの皆さんのこととか周りのことよう見てはるんやなって。前見してもろた試合の時、あれでしょ、上げるボ一ルの高さ調整してはったでしょ。金田一君の時と岩泉さんの時。それに鳥野の方で一瞬穴があった時なんかほんまに間髪入れずに攻め込んではったし。」
及川の目が少しずつ見開かれていくのに美沙は話すのに夢中で気がつかない。
「何より」
そうして縁下美沙はそれと知らず及川の心を擊ち抜いたらしい。
「及川さんの熱意が生で見ると全然ちゃうって。前から聞いてたけどもっとそれがわかって、私2階から見てたけど圧倒されてました。」
あっ、せやけど、と美沙は付け加えた。
「他の人らに熱意を感じんかったて意味ちゃいますよ。」
「大丈夫だよ、美沙。みんなわかってる。」
義兄に言われて安心する美沙の側では及川が目を見開いてワクワクが止まらないといった笑顔で少女を見つめている。
そして彼は暴発した。