第56章 【王者の恩返し】 その3
「お前、まだ食べてなかったのか。」
「待っとった。」
「律儀だな。」
「牛島さんほどやないよ。」
「そうなのか。」
「えと、まぁ人の感じ方によるかと。」
牛島に問いかけられて困ったように笑い対応する力の様子を見て、美沙と烏野の連中は当然のこと白鳥沢側もほっと胸をなでおろしたのだった。
さて、本番はここからである。
「あれは」
牛島が呟く。
「ちゃんと噛んでいるのか。」
「そのはずなんですが。」
縁下力は苦笑しながら答える。
隣に座る義妹の美沙はというと、そんな義兄達の会話はどこ吹く風といった様子で先程取った皿の上の料理を食している。
言葉は発していないものの、明らかに嬉しそうだ。
それは良いのだが、食べるスピードが普通の女子に比べて妙に速い。
「ちゃんと噛めよ。」
力は呟いた。
言われた義妹は黙って首を縦に振るだけだ。別に義兄を軽視しているのではない。
行儀が悪いので口の中に食べ物が入ったまま喋らないだけである。
とはいえやはり、義妹の皿の上の料理はどんどん消えていく。
マスで仕切られているタイプの皿なので結構種類を取っていたし、中にはわりと大きい上に衣が固めの唐揚げや弾力のあるイカ料理、身が分厚いはまぐりが入った料理もある。
どれも義妹の小さな口なら数回に分けて、しかもかなりしっかり噛まないといけないようなのに、だ。
「聞くが、味はわかるのか。」
今度は牛島に聞かれてやはり義妹は首を縦に振る。
ほんの少しもぐもぐした後、飲み下した義妹は口を開いた。
「お外のご飯はだいたい味付けが濃いめやから特にしっかりと。」
「そうか。」
「ウッソーン、フツーじゃね。」
聞きつけた天童が口を挟み、ここで日向が何故か挙手する。
「美沙はすっげぇ薄味派です。」
「マタマタァ。」
天童はヘラヘラ笑って信用していない様子を示すが、日向は意味有りげに声を潜めた。
「俺、たまーに美沙に弁当のおかず分けてもらうんスけど。」
「なんでもらっちゃってるの、そんでままコちゃんもくれるわけ、大食いなのに。」
天童は目をパチクリさせ、日向は頷く。