第56章 【王者の恩返し】 その3
「で、もらったの食ったら結構味薄いって思う時があって。」
「マジかよ。」
「でも美沙は、ちゃんと出汁の味ついてるって。」
「本人談ネ。」
「オムレツもケチャップがすっげぇ薄いし。」
「でもままコちゃんてほぼ関西人じゃん。たこ焼きは、ソースどうしてんの。」
「美沙さんはそっちも基本出汁派なんで。」
おずおずと口を挟むのは山口だ。
「ハ。」
首をかしげる天童に月島が面倒くさそうに口を挟む。
「山口、ままコさんのは玉子焼。」
「あ、そっか。」
「タマゴヤキ。」
「明石焼きのこったろ、前聞いたじゃん。お前のワガママであいつのバイト先に凸った時。」
うろ覚えの天童には瀬見が突っ込むが、天童はそーだっけとやはり首を傾げる。
おそらく興味がなくて忘れたのだろう。
そんな外野の声など流して―多少聞こえてはいたのだけれど―、美沙はすっかりと皿の上のものを平らげていた。
一応女子勢と比較すると清水と谷地はそんなに種類を盛っていない上に、3分の1ほどしか食べ終わっていない。
「2周目行ってくる。」
そして普段のトロくささはどこへやら、無駄レベルの高速で美沙は立ち上がる。
「ああ、行っといで。でも慌てるなよ、皿とか料理ひっくり返したら大変だから。」
「はーい。」
義兄は微笑んで言うだけ、美沙は頭の上に8分音符が飛んでいるかのようなウキウキ加減でまた料理を取りに行った。
「まだ食べるのか。」
牛島が力に聞いてくる。
「まだ1皿目ですし。」
「皿のマス目全てに乗せていたが。」
「1つ1つはてんこ盛りじゃなかったですし。」
「ならいっそ2皿一度に持ってくるのが早そうだが。」
「万が一食べきれなかったら問題なので。半分ボケでもそれくらいの分別はあります。」
「お前が肩代わりするのは。」
「途中まで箸をつけちゃってたら問題なんですよね、衛生面で。」
「その意見には賛成するが、お前が気にするとは正直思わなかった。」
「いや、むしろ美沙が。虫歯もないし歯周病もないはずだけど俺に何かあったら困ると。」
「妹は構わない質(たち)なのか、繊細なのかどちらだ。」
「ものによります。けど俺が絡むか絡まないかで決まることが多いみたいです。」
困ったような笑顔で返す力に牛島は少し考える素振りを見せた。