第10章 【関西弁の色物】
「で、どこの誰。」
ふぎゃあと力なく叫ぶ美沙は宮から聞いた範囲の事を伝えるしかなかった。
「ふーん。」
力はそれだけ言ったので美沙はもう勘弁してもらえるやろかと思ったが甘かった。
「名前はわかったけど他にもあるだろ。」
「他て。」
意図がわからず美沙は首を傾げる。義兄の笑みが更に深くなったのが怖い。
「ちらと聞こえた限りじゃ初対面の人にお前最初から関西弁だったから。」
「その、宮さんも関西弁やった。どこの地域かはわからんけど。」
「そう。」
その返事に満足したのか力はそう言って早速スマホを取り出して何やら操作し始めた。
「あの、兄さん。」
不安になってきた美沙が恐る恐る声をかけると義兄は大丈夫だよと笑った。だがしかし大丈夫な気がしない。どうもメールを打っているらしいが何のつもりなのか。やがてメールを送信し終えたらしき義兄は美沙を振り返る。
「影山にメール送っといた。」
「え。」
美沙は呟く。
「一体何て。」
「それは内緒。」
「ずっこいっ。ちゅうかさっき邪魔するような真似すな言うたん誰やったっけ。」
「俺だけど事は急を要したから。」
「無茶苦茶やっ。」
「はいはい。」
抗議をするも義兄はスルーしあまつさえ強引に唇を重ねるという真似をしてきた。ずっこいと言いたかったがそれはんぐぅという唸り声にしかならない。しばらく兄妹は何度もお互い唇を重ね合っていた。
「にい、さん」
息苦しくなってきて美沙は呟く。
「何だ。」
今度の義兄の微笑みは神か魔王か。
「もうかんにんして、は聞かないからな。」
「そんなー。」
美沙の抗議の声はやはり届かない。とうとう抱きしめられ美沙はしばらく動くことはかなわなかった。