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【ハイキュー】エンノシタイモウトこぼれ話

第55章 【王者の恩返し】 その2


「ちょお、兄さん。」

小さく抗議してみるも、義兄はいつもどおり困ったような笑みを浮かべつつもまったくもって動じていなかった。
それどころか牛島に向かってこう言った。

「こいつ外出ると何かと引き寄せるんで、」
「ちょ、それ堂々と言うことやないし関係ないっ。」
「確かに。」
「ウシワ、いや、牛島さんは納得せんといてくださいっ。」
「言うなれば俺なりの安全策です。」
「むしろわりと面倒が増える説もあるしっ。」
「そうか。」
「せやから牛島さんは納得せんといてってっ。」
「美沙、店の前で騒がない。日向とか田中達じゃないんだから。」
「誰のせーやとっ、あとめっちゃ不本意っ。」
「そういや最近知ったんだけど、"めっちゃ"ってのもあまり柄の良くない言い回しらしいな。」
「今そこ指摘するんっ。」
「では実際は何というべきだ。」
「"むちゃくちゃ"とか"めちゃくちゃ"ならいいらしいです。」
「標準語と変わらないな。」
「イントネーションくらいでしょうかね。」
「私差し置いて関西弁講座ってどういう状況っ。」
「とにかく、気質(かたぎ)のじゃない関西弁は使わないこと。」
「仮にも縁下力が人の話をわざとそらすなんちゅうごまかしをしてええんかいな。」
「必要ならいくらでも。」
「魔王様や。」
「何か言ったか。」

笑顔で威圧されて美沙はとうとう口をつぐんだ。
我ながら情けないと思うのだが、縁下家に来てからどうしたって義兄のこれには勝てた例(ためし)がない。
黙った途端に美沙の腹からキュルルルルと音が響く。

「入ろう。」

牛島が静かに言った。

「そうですね。ほら、美沙。」
「う、うん。」

なんやろか、と美沙は思う。
せっかく行きたかった所に来れたはええけど、釈然とせん始まり方になっとう。
とはいえ間違いなく腹も減ってきた訳で、結局義兄と一緒に牛島の後に続く美沙の足取りは少し浮いた様子だった。

店に入る直前、義兄が一瞬だけ店の向かい側を振り返ったことはまったく気がついていなかった。
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