第55章 【王者の恩返し】 その2
「さっきも言ったろ、結局のところお前はわかりやすいんだよ。」
「私が阿呆ってことやないやんね。」
「うん、次阿呆な事を言ったら帰ってからおしおきする。」
「そ、そんなんしたら澤村先輩と成田先輩らに言いつけたるもん。」
「言うようになったな。」
「あ、あと赤葦さんにも。」
「赤葦君は逆にポーカーフェイスで面白がりそうだけど。」
「いや、案外兄さんが溺愛が過ぎるって突っ込まれるかも。」
「最近生意気ばっかり言うのはこの口かな。」
「触ったらリップクリームつくで。化粧落としは持ってへんからね。」
「そこなのか。」
兄妹はこの調子で傍(はた)から見れば謎の会話をしながら、店に向かったのだった。
なおこの間、義兄の力は迷子防止という名目で義妹と手を繋ぎっぱなしだったという。
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縁下兄妹が店の近くまで来ると、二重の意味で見慣れたでかい姿が待ち構えていた。
「来たか。」
兄妹を見て、牛島は静かに言う。
兄妹はほぼ同時にこんにちは、と挨拶をし
「もしかしてえろう(えらく)お待たせしてもた感じですか。」
結構早く来ていたと思われる牛島に、美沙は少し不安になって尋ねる。
天下のウシワカに面と向かって天然呼ばわりするとはいえ、完全に行儀や礼儀を忘れている訳ではない。
「いや。」
対する牛島は短く答える。
「俺も少し前に来たばかりだ。」
本当なのか気遣いなのか、美沙にはわからなかったが少なくともそこは大して気にしていないようだ。
「それより」
牛島は言って今度はジロリと下の方に目をやった。
「お前達は外に出るといつもそうなのか。」
高校男子バレーボール界の有名選手が目をやったのは奇妙な義兄妹―あくまで彼にとってだが―の手元である。
気がついた美沙は手を離そうとするが、あろうことか義兄が離してくれない。