第52章 【Sorry for Dali その5】
一方こちらは空気と化していた美沙の義兄、縁下力である。
美沙と茂庭が帰ろうとしている頃、彼の方は丁度休日の部活が終了して仲間達と帰っているところだった。
そろそろいい時間だけど。
力は思う。
大丈夫かな、いや相手は茂庭さんだし大丈夫なはず。及川さんですらちゃんと帰してくれたんだし。
無理もないが、もし及川が聞いたら大騒ぎしそうなくらい失礼な思考である。
義妹がが絡んだ時限定の思考の乱れは今の縁下力の標準と化していた。
というか茂庭さん本人は大丈夫だけど美沙の奴まさか困らせてないだろうな、礼儀知らずな訳じゃないけど半分ボケだから天然発言で茂庭さんが混乱した可能性はあるぞ念の為フォローしとかないと、あと及川さん、今の所メッセは来てないけどもし遭遇してたら必ず何かよこしてくるだろうからうまいこと流さないと。
一連の乱れた思考の最中、力は片手を口元にやって押し黙っていた。
そんな状況なものだから、烏野の連中はどうしたんだといったこっそりと彼を見つめている。
「縁下の奴が沈黙してるぞ。」
田中がヒソヒソと言う。乱れた思考に忙しい力には聞こえていない。
「腹が痛いのか。」
さらっと単純全開な事を言う西谷に、
「食べ過ぎとかですか、まさか縁下さんが。」
日向が更に単純な見解を述べ、
「お前じゃあるまいし。」
影山がケッと吐き捨てるように言って、
「や、縁下が腹痛いってんなら食い過ぎじゃなくて神経性だと思う。」
木下が反対意見を述べると、
「いやあの木下さん、それ何気に洒落にならないネタでは。」
山口が苦笑しながらつぶやいて、
「胃薬なら私、鞄に入れてますよ。」
谷地が謎に息巻き、
「仁花ちゃん、それも違うと思う。」
清水が静かに突っ込む。
「まさか頭痛の方かな。縁下、美沙ちゃんが来てから苦労増えてるし。」
東峰は本気で心配し、
「旭、心配しすぎ。」
菅原はのんきに笑って、澤村がだな、と頷いてニヤッと笑いながら成田を見やる。