第52章 【Sorry for Dali その5】
「そういえば流れてた曲、聞き覚えがあるな。」
「くるみ割り人形ちゃいますか、チャイコフスキーの。」
「ああ、そうだった。」
「更にその中の花のワルツ。」
「よく覚えてるな。」
「ばあちゃんがそういうの覚えとかんとやかましい人やったんで。」
「失礼だけど、美沙さんのおばあさんって何者。」
「私もようわからんです。」
「それはなかなか。」
茂庭は苦笑して、ふと気がついたような顔をした。
「そういえば美沙さん、さっきの噴水、写真とか動画撮らなくて良かったのかい。」
学校でもケースを下げてまでスマホを持ち歩く美沙がそういえば、噴水のパフォーマンスの間は一切スマホを取り出していなかった。
撮影禁止の美術館内ならともかく、と茂庭が思うのも無理はない。
「そうしたかったのはやまやまやったんですが」
美沙は照れて笑った。
「私の場合はそれをするとせっかくの景色を見るのに集中出来へんので。」
「そっか。」
茂庭はそれ以上追求しなかった。
あとで彼が鎌先と笹谷に語った所によると、美沙がとても満足そうだった為それでいいと思ったという。
「さて、」
ふぅと茂庭が息をつく。
「何だかんだで結局丁度いい時間だな。」
「ほんまや。」
「帰ろうか、美沙さん。」
「はい。」
美沙はまた笑ってうなずき、茂庭はまた思わず一瞬目をそらしてしまう。
そのまま2人は帰途につくのだった。