第9章 【ホワイトデーの話】
「おい久志っ。」
丁度部室にやってきた西谷夕が声を上げた。
「俺と龍が何つった。」
「いやべっつにー。」
「そうか、わかったっ。」
「単純。」
成田が呟く。
「でも助かったよ。」
力は言ってほっと胸をなでおろした。
結局そのまま部活が始まり、力はとりあえず練習にはちゃんと集中していた。
が、一旦休憩になるとまたさてどうしようかと考える。
「縁下さん、どうしたんですか。」
雰囲気で悩んでいるのがまるわかりだったのか美沙と同じクラスにしてマネージャーの谷地仁花が尋ねてきた。しかしこれは丁度いい。
「あ、ああ実はさ、うちの美沙にホワイトデーのお返しをしてやりたいんだけど何がいいのか悩んでて。」
「な、何とっ。」
谷地は声を上げるがすぐに落ち着いた。
「いいですね、きっと美沙さん喜びますよ。」
「そうかい、良かった。それでお菓子でいいかなとまでは思ってるんだけどさ、そっから困ってるんだ。」
「うーん、そうですねぇ。」
しばし力と谷地は一緒に唸る。やがてハッとなったのは谷地の方だった。
「あの、もし売り切れてなかったらの話ですけど」
言って谷地はゴニョゴニョと力に耳打ちをした。
「そんなのあったんだ。」
力は呟いた。
「はい。こないだ一緒に帰った時、お店よったら美沙さん密かに気にしてました。だからもしかしたら」
「ありがとう谷地さん、そうするよ。」
礼を言う力に谷地はどういたしましてとニッと笑った。