第2章 【マドレーヌの話】
「上手に出来たみたいだね。」
「大方お母さんに手伝う(てつどう)てもろたから。」
美沙は顔を赤くして謙遜するが母がそんな事はない美沙は結構1人で頑張っていたと言う。
「母さんも嬉しそうだな。」
言う息子に母はだって娘とこういうことが出来るとは思っていなかったからという意味のことを言った。元々母は望んで美沙を引き取った人だ、相当喜んでいたに違いない。
「そっか。」
「今冷ましとうから後で兄さんとお父さんのおやつにとっといて、バレー部の皆の分も包むな。」
「楽しみにしてるよ。」
綺麗に並ぶ貝殻の形をした菓子に目をやって力は微笑み、とりあえずまだ手も洗ってなかった事に気づいて慌てて洗面所へ向かった。
そうして後日のことである。
「お、縁下。それ何だっ。」
部活が終わった烏野高校男子排球部の部室にて、チームの2年仲間である田中龍之介が力の手にある紙袋に食いついた。
「ああこれ。差し入れ。」
「なぬっ、縁下がっ。」
「正確にはうちの美沙から。」
力が言うとたちまちのうちに野郎共の多くがおおーとどよめく。
「美沙ちゃんからってめっずらしい。」
副主将の菅原孝支が目を丸くする。
「で、力、中身なんなんだ。」
既に香りを嗅ぎつけているのかこれまた2年仲間の西谷夕がよってきて目をキラキラさせている。木下久志が犬かよと呟き成田一仁が似たようなもんじゃないかと穏やかな顔できつい事を言っているのにも気がつかない。
「マドレーヌ、美沙が焼いた。」
野郎共が今度はえええええええっと声を上げた。
「え、縁下妹が菓子を作っただとぉっ。」
「田中、驚きすぎ。」
「だっておめーの妹といや、女子力何それ美味しいのを地で行くことに定評があるだろがっ。」
驚きすぎていらんことまで口走る田中に美沙と同じクラスである谷地仁花が慌てる。