第41章 【王者の命】その1
その後は特に誰かが酔ってしまったという事もなくバスは無事に白鳥沢学園高校に到着した。
公立の烏野とは段違いの広すぎる敷地、間に並ぶ校舎他各施設、烏野の面々は―一度ここに足を踏み入れたことのある日向や影山も含めて―圧倒されてほとんどがため息をつく。
「話には聞いてたけど」
力の隣で木下が呟いた。
「物凄いな。」
力はそうだなと同意してふと気がついた。
「うちの美沙はこんなとこに潜り込んでたのか。」
「あー、日向と影山に頼まれて一緒に偵察行ったんだっけ。」
成田に言われて力は頷く。
「日向と影山も大概だけど改めて考えたら美沙さんもとんでもないよな。」
「まったく、我が妹ながらよく無事で帰ってこれたもんだよ。」
「流石ウシワカを天然呼ばわりするだけあるわ。」
「やめろ木下。」
白鳥沢学園高校バレーボール部主将、宮城からの唯一の日本ユースの選抜者、高校バレー界ではおそらく知らない奴の方が圧倒的に少ない天下の牛島若利と接触した上に面と向かって天然だとのたまう義妹、とんでもないのは確かだが改めて言われると恥ずかしい。まったく、どうしてそうなったのか。
「こら、そこ」
前の方を歩いて引率していた烏養が振り返る。
「話(はなし)すんのはいいけどちゃんと歩け。」
「すみません。」
「後な縁下、」
「え。」
「妹の話は程々にしろ、引き寄せちまったらかなわねぇ。」
後ろで木下、成田、田中龍之介の2年仲間3人がブフーッと吹き出すのが聞こえた。残りの2年仲間、西谷夕は確かになともっともらしく頷いていて力にこっそりと睨まれている。
「勘弁してください。」
力はため息を吐いたが
「いえ、当然の流れでは。」
よりにもよって1年の月島蛍が口を挟む。日頃美沙とぶつかり気味且つしばしば縁下兄妹のありように異を唱えている彼に入ってこられるとややこしい。
というより無駄な事をしたがらない彼が話に入ってくるとは思わなかった。