第41章 【王者の命】その1
そうやって一同がさてバスに乗り込み始めた所で、である。
「縁下」
2年生仲間の成田一仁が出し抜けに言った。
「忘れ物ない。」
「は。」
お調子者の田中龍之介または西谷夕ならまだしもクラスメイトで普段自分と同じく騒ぐ奴らを止める立場の成田に言われて力は正直、急にこいつ何聞いてくるんだと思った。
「何だよ急に、何ネタだよ。」
ところがここで
「縁下、忘れ物はないか。」
主将の澤村もにっこり笑って同じような事を聞いてくる。
「大地さんもどうしたんですか、大丈夫ですよ。」
ところが思わぬところからも来た。
「おい縁下、忘れ物してねぇだろうな。」
まさかの烏養からである。
「え、ありません。ちゃんと確認しました。」
「だったらいいけど。」
何なんだ一体と思いながらも力はだんだん嫌な予感がしてきた。
そうしている間に順番が来て自分がバスに乗り込んだところで
「縁下君、今回は忘れ物はないですよね。」
とうとう顧問の武田にまで言われた。それも笑顔付きで、である。
「大丈夫です、先生。ってか何で先生まで仰るんですかっ。」
もしかしてと思い始めつつも力が思わず声を上げると先にいた成田がポスッと力の肩に手をおいた。
「しょうがないじゃん、前科があるし。」
ああやっぱりかと力は思った。家を出る前に自分が義妹に言ったあれだ。
「青城はまだしも流石に白鳥沢まで美沙さんが突撃したらヤバイだろ。」
確かにその通りだが何も成田、澤村、烏養、武田と4段階で言うことはないだろうと思いつつ力はバスの中を見渡す。
だがしかし、先に座っていた排球部の連中は―それも2年仲間の木下久志、マネージャーの清水潔子と谷地仁花までもが―一斉にうんうんと頷いていて力はがっくりと肩を落とした。
「念の為言っておきますけど」
えらい言われようにため息をつきながら力は言った。
「美沙にも万が一忘れ物があったとして突撃しないように言ってありますから。」
「んで、他の申し送り事項としては何言ったんだ。」
「おいっ。」
木下に言われて流石の力も思わず赤面、菅原がブフォッと吹き出しているのが聞こえる。
木下の奴後で覚えてろと思いつつ力は席に着き、武田が運転するバスは発進したのだった。