第41章 【王者の命】その1
「烏養さんがわからん言うんやったらこっちは余計わからへんね。」
「そういう事。どっちにしろ日向と影山は盛り上がってるけど。」
「ずっと絶対やったるって意気込んでるもんね。」
「お前にまで知られてるんじゃどうしようもないな。」
力は苦笑して両親の目がないのをいいことに隣に座る義妹を抱き寄せる。
途端に照れ屋の義妹は顔を力の胸にうずめた。
「何にせよ頑張ってな、兄さん。」
力の胸に顔をうずめたままモゴモゴと義妹が言う。
「例によって俺は出れるかわかんないけど。」
「それこそわからへんやん。」
「そうかもな。じゃあ頑張るよ。」
「うん。」
普段あまり表情が変わらない義妹はにっこりと笑った。
そして何だかんだで練習試合当日である。
「念の為言っとくけど」
朝早く、玄関で靴を履き終わった力は言った。
目の前には見送るといってやってきた義妹がいる。
「今回ちゃんと忘れ物はないって確認してるから。」
「う、うん。何でまた急に。」
キョトンとして首を傾げる義妹に力はハアとため息をつく。
「お前さ、前にうちが青城と練習試合になった時俺の忘れ物見つけて単身突撃しただろ。」
「あ。」
義妹はほとんど濁音に聞こえる発音をした。察したらしい。
「お前のことだから忘れてないと思うしそもそも俺が忘れ物したのがいけなかったけど、お前が凸(とつ)っちゃったせいで及川さんが暴走して他の人にも波及して大騒ぎになったろ。」
「うん。」
やはりちゃんと覚えていたのか義妹の顔色が少し悪くなっていた。無理もあるまい。
青城こと青葉城西高校の男子バレーボール部及川徹はやたら女子にモテる系男子の癖にどういう訳か美沙を気に入っている。
しかも動画投稿者ハンドルネーム、ままコのファンだと公言するに留まらず美沙を見かけたら口だけでなくセクハラと言っても差し支えはない物理的ちょっかいをかけてくるのだ。
そして大体は怒った相方の岩泉一が及川をどつき及川はそれに抗議し、チームの他の連中も面白がったり突っ込んだりする為大騒ぎになる。
力が言った忘れ物を届けに行った話もそれが故に起きた騒ぎの一つである。
なお、そういう時は力もその場にいれば必要以上に妹愛を発揮する為に余計に話が大きくなるのだがそこは今はおいておこう。