第41章 【王者の命】その1
一体全体どういった冗談なのか、いや冗談ではないのだがどういった巡り合わせなのか。
何と、バレーボールでは宮城最強の白鳥沢学園高校と堕ちた強豪、飛べない烏などと失礼を言われ続けた烏野高校が練習試合をする事になった。
妙に燃えていたコーチの烏養繋心と少々動揺していた顧問の武田一鉄からそれを聞かされた烏野高校男子排球部の面々は当然一瞬パニック状態に陥った訳だが程なくいい感じに緊張感が高まって、日向翔陽などはウシワカ倒すと張り切りまくっていた。
例によって月島蛍がすぐピシャンとその張り切り過ぎをはたき落とすような発言をして喧嘩になりかけたのもいつもどおりである。
そんな中、2年の縁下力は何か物凄い事になったもんだなと思いつつ少々の緊張を覚えていた。
「またどえらい話やねぇ。」
夜の縁下家、遅くに部活が終わって帰宅した力の自室にてベッドに座った少女が言った。
この辺りでは珍しい関西弁、義妹の美沙である。
「ほんと、まさかの話だよ。」
力は言って美沙の隣に座る。母の友人の娘、生まれた頃には既に両親がおらず育ててくれた祖母も亡くして縁下家に引き取られてきたこの義妹を力は仲間から総突っ込みを食らう勢いで溺愛していた。
言葉は祖母の影響なので仕方がないとしてどうにも女子っぽくなく一昔前のオタク全開、どマイナー動画投稿者で人見知り、かと思えば開き直ると怖いもの知らずになるという変わり者属性にも程があるのだが一方で親切で危ういほど真っ直ぐ、全力で義兄である自分を敬愛してくれる所にどっぷりとはまり込んでしまったのである。
最近はその独特の性質とお洒落をするとなかなか悪くない具合になることに惹かれた他所の野郎共にちょっかいを出されるので力としては対応に困る所であるが。
「せやんね(そうだよね)。ウシワカさんとこの事情は基本ようわからんけどあそこ確か、大学生と練習試合してるレベルやなかったっけ。」
「そうだな。」
「そら兄さんらが弱いとはまったくもって思ってへんけど」
「そりゃありがたいな。」
「言うても何でまたわざわざ。」
「わかんない。というか烏養さんがどういう訳だかわからないけどって前置きしてたくらいだから。」
男子排球部のコーチをかってでている坂ノ下商店の烏養繋心は前監督の孫、その前監督は白鳥沢学園高校の監督と張り合っていた間柄だ。