第7章 【1日遅れのバレンタイン】
美沙が去ってから青葉城西側は少しやかましいことになっていた。
「ちょっと岩ちゃんっ、美沙ちゃん来てたのっ。」
女子に囲まれていたところをいい加減我慢できなくなった岩泉にどつかれて止められた及川が声を上げていた。
「何で言ってくれなかったのさーっ。」
「お前が忙しそうだったんでな。」
岩泉はふんと鼻を鳴らす。
「ひっどーいっ、オフラインで会うの久しぶりなのにーっ。」
「すぐ側にいたのに気づかねえお前も悪い。」
違うと言えずぐぬぬと唸るもののいつまでも落ち込む及川ではない。
「さっきまでいたんだよねっ。」
「おいボケ川、何考えてる。」
「追っかけるっ。追いつくよね、きっと。」
「ばか及川っ、待ちやがれっ。」
ダッシュを始めた及川に岩泉が怒鳴りなら後を追った。
美沙は後ろからドタドタと足音がし、おまけに岩ちゃん早くという声が聞こえてきたので本能的に早足になり、しまいに駆け足になっていた。しかし例によってインドア動画投稿者のスピードなどしれている。
「美沙ちゃん、つーかまえたっ。」
「ちょっやめて、あかんあかんっ。」
「このどアホのクソ川っ、路上でセクハラ行為すんなっつってんだろーがっ。」
ブチブチにキレた岩泉が及川を引っ叩き、首根っこをつかんで美沙に抱きついているところをひっぺがす。セクハラ行為以前に路上で大騒ぎになった為、道行く大人が何だあの学生共と言った目で見てくる。美沙としてはもう一度逃げ出したい心境だ。しかしどつかれた及川はまったくめげていない。
「もー美沙ちゃんてば、渡し逃げするなんでひどいじゃーん。」
「いやあの、お忙しそうやったんで。」
周りの女の子達は美沙より可愛い子が多かった、正直美沙が入り込むと反感を買いそうで怖かったのだ。
「遠慮しぃだね。あ、また美沙ちゃんの言い方うつったっ。それよりありがとね、嬉しいな。」
満面の笑顔で言う及川に美沙は改めて恥ずかしくなり目を合わせられない。
「なんやかんや言うてもお世話になってるんで。」
及川はふっふーんと何やら満足げに言ってから尋ねる。
「これ袋も作ったの。」
「素材集とかの模様借りて合成して印刷しました。」
岩泉が相変わらず無駄に器用な奴だと呟く。