第7章 【1日遅れのバレンタイン】
「お前、何でまた。」
「ホンマはバレンタインにお渡しできたら話早かったんやけどそんなスキあらへんくて。」
「律儀な奴だな、まぁありがとよ。」
岩泉は言って差し出された包みを受け取る。
「で、その様子だとクソ川にも一応持ってきた感じだな。」
「御察しの通り。せやけど、」
美沙は言って及川の方を振り返る。他の少女達に囲まれて思ったよりスキがなさそうである。
「私の場合は渡せたらそれでええんやけど。」
美沙が呟くと岩泉が言った。
「いっそのこと投げ込んじまえ。クソ川相手ならそれで充分だ。」
岩泉は言う相手を間違えたかもしれない。流石に投げ込みはしなかったが美沙はええお考えやと呟き、今もヘラヘラと他と話すのに夢中な及川に近づく。義兄の力に次いで地味だと言われる外見、静かに近づいても誰も気づかない。美沙はヒョロヒョロ呼ばわりされている腕をそっと伸ばして持ってきた小さな袋を及川が腕に抱えているプレゼント類の隙間に突っ込んだ。
「これでよし。」
美沙は岩泉のところに戻ってきた。
「お前ら兄妹揃ってちょいちょい大胆だな。」
岩泉が苦い顔をして呟く。
「つかクソ川もクソ川だ、あんだけ美沙ちゃん美沙ちゃんうるせー癖に全然気づいてやがらねぇ。」
「ああ、ええんです。とりあえず日頃の感謝って事で。」
実際その通りなので美沙は笑って言った。
「ほな私はそろそろ帰ります。お忙しいとこすみませんでした。」
「いや気にすんな、こっちこそありがとよ。クソ川には伝えとく。」
「ありがとうございます、失礼します。」
美沙は岩泉に挨拶をし、まだ女の子達に捕まっている及川にも見えないだろうと思いつつも会釈をして歩き出す。そろそろ帰らないと義兄の力が何か察して音声通話を入れてきそうだった。