第7章 【1日遅れのバレンタイン】
さて、人生で初めて自らバレンタインデイに人様へ義理チョコならぬ義理飴を配り、敬愛してやまない義兄にもチョコを渡した(結果必要以上に愛でられた)縁下美沙だが、更に世話になってるからと青葉城西の岩泉とついでに及川にも渡そうと思っていた。物は男子排球部関係者に配ったものと同じだが気持ちといったところである。しかし義兄の力が聞いたら間違いなく黙っていない為、美沙は一計を案じた。それは本来のバレンタインデイから1日後の月曜日に決行された。
これは驚くしかないだろう。その月曜日、青葉城西高校の前に人見知りでビビリの縁下美沙がいた。初めて来たのによくぞ迷わなかったものである。
その人見知りのビビリは青葉城西の校門前にひっそりと立っていた。青葉城西のバレー部は月曜日は練習が休み、この時間なら多分及川と岩泉をセットで捕まえられそうな気がする。そして美沙にとって幸いな事に同じく及川の出待ちと思われる少女達が少ないながらもいたので怪しまれる心配が少ない。
待つことしばし。
及川待ちの少女達が声を上げた。美沙もばっと顔を上げると及川がにっこり笑いながら岩泉と一緒にやってくる。たちまちのうちに少女達が及川のところに殺到し美沙は出遅れた。が、全く動揺せずに美沙は女子に囲まれた及川にイラついている岩泉のところへ先に行った。
「岩泉さん、こんにちは。」
「お前、烏野6番の妹。」
「あの、私は縁下美沙です。」
「お前らの苗字言いにくいんだよ。で、こんなとこまで来てどうした。兄貴は。」
「1人です。」
「あのシスコン野郎がよく許したな。」
「いや、許さへんの目に見えてるんで黙ってきました。」
岩泉はマジかと呟き、美沙は鞄をゴソゴソして例の物を取り出した。
「あの、これ。いつもお世話になってるので。」
相手が岩泉とはいえ慣れないことをするのは強烈に恥ずかしい。美沙はいつも以上に顔を上げられない。美沙は見えていないが岩泉も驚いていた。