第6章 【初めてのバレンタイン】
さて、その頃初めてバレンタインで自ら人様に配るといった事をした縁下美沙、今度は自宅にて義兄の力が帰ってくるのを今か今かと待っていた。机の上には自作ではなく明らかに店でラッピングされた包みがのっていた。
力は例によって遅く帰ってきた。いつものように二階へ上がるといつものように義妹が部屋から出てくる。
「兄さん、おかえり。」
「ただいま美沙。ああ、今日はありがとうな。みんな喜んでたよ。大地さんがお前によろしくって。」
「そ、そぉ。良かった。」
美沙は照れて視線を下に落とすが何やらまだモジモジしている。力は一瞬期待するがまさかな、と思った。この義妹は基本的に行事には疎く執着があまりない。先日の力の誕生日にプレゼント他サービスがくっついていたのはレアケース、その執着のなさは自分自身の誕生日すら忘れるレベルだ。しかし、
「に、兄さん、あの、」
「うん。」
「今日はこれっあげるっ。」
顔を真っ赤にして義妹が力の鼻先に包みを突き出した。戸惑いながらも力が受け取ると美沙はそのまま部屋に逃げようとする。が、こうなればみすみす逃す力ではない。
「ちょちょちょ、兄さんっ。」
何が起こるか気づいた美沙が小さく言った。
「あかんて、お母さん下にいてはるよ。」
「どうせ着替えるまでに時間かかるから怪しまれやしないよ。」
力は言って義妹の手を引き、自分の部屋に引っ張りこんでしまった。
そうして美沙は気がつけば義兄の部屋に連れ込まれ、愛でられていた。
「えと、喜んでくれたんは嬉しいけどそないに。」
自分を抱きしめ頭や背中をやたらなでなでする義兄に美沙は尋ねる。とっくに義兄と一線を越えてしまった身の上の癖にこいつはまだ少し鈍いところがある。
「お前ね、当たり前だろ。いつも行事何それ美味しいのって顔してる奴に誕生日の時に続いてここまでしてもらったんだから。それにしてもいつの間に。」
「男バレのみんなの分用立てながら一緒に。なるべく美味しそうなん選んだ。兄さんの口に合(お)うたらええんやけど。」
「気持ちだけでも充分だよ、ありがとな。」
照れまくった美沙はすりすりぐりぐりといつもの動物みたいにほおを擦り付けるやつをやる。美沙は見えていなかったが力は可愛いなぁといった顔でそれを見ていた。