第6章 【初めてのバレンタイン】
そうして迎えた2月14日、何と人見知りの縁下美沙が日曜日なのに登校し単身で男子排球部部室前にいた。片手には紙袋、少し膨らんでいる。ドキドキしながらドアをノックすると清水が顔を出す。
「あ、清水先輩、こんにちは。あの、」
「仁花ちゃんから聞いてる。」
「ほなすみません、これ。」
「うん、頼まれた。」
美沙がおずおずと紙袋を渡すと清水はあまり野郎共には見せない笑顔で受け取ってくれた。美沙はありがとうございますと頭を下げ、逃げるようにその場から走り去った。
そうして時間が進み休日の練習を終えた男子排球部の部室には美沙の義兄、縁下力を始めいつもの野郎共とマネージャー達が揃っていた。
「みんなお疲れ様ですっ。これ、私と清水先輩から。」
どーぞと谷地は清水と一緒に用意した義理チョコの包みを引っ張り出して配り始める。野郎共の多くがおおーと歓声をあげ、特に田中と西谷が潔子さんからっと受け取ってから狭い部屋で勝手に盛り上がり澤村に暴れるなと怒られる。
「あと、今年はもう一つ。」
清水が彼女にしては声を張り上げて言ったので野郎共はキョトンとし、静かになった。清水は美沙が持ってきた紙袋を取り出す。
「美沙ちゃんから。みんなにって。」
「ええっ。」
野郎共が驚く前に声を上げたのは力だった。
「ああああの、美沙ってうちの美沙ですか。」
清水は頷き当人は特に意図もなく
「貴方の美沙ちゃん。」
と答えたので気恥ずかしくなった力は顔を赤くし、木下と成田がニヤニヤしながら力を見る。
「このところ部屋に籠る事が多かったから何かやってるなとは思ってたけど。」
「力も知らなかったのかっ。」
西谷が声を上げる。
「ああ、聞いてもごまかすし。」
「でも有難い話だな。」
東峰がいい、
「ああそうだな。妹さんによろしく伝えといてくれ、縁下。」
澤村が笑う。
「潔子さんっ、縁下妹の分もくださいっ。」
田中が叫んだ。
「田中、慌てない。ちゃんとみんなの分預かってるから。」