第30章 【強引g his way】その1
「よし、全員いるな。」
「あの澤村先輩、」
「ん。」
「確認はええんですけど何もわざわざ私まで呼ばんでも。」
「さあそろそろ行くか。」
「流すなーっ。」
「美沙、大地さんに失礼だよ。」
「兄さんはとりあえず手ぇ離してっ。」
「断る。」
「お手洗い行きたいからっ。」
叫ぶ美沙に力は一瞬沈黙して澤村があ、と思いだしたように呟く。
「美沙さん以外にも便所行きたい奴は先に行っとけよー。」
澤村の呼びかけに早速日向と山口が反応し、一方力は美沙の発言を聞いてどういう訳か冴子に声をかけた。
「すみません冴子さん、」
冴子は力を振り返り、力はさらりととんでもないことを口にした。
「美沙と一緒にお手洗いついてってください。」
言うまでもなく一瞬一同は沈黙した。部員達はほら出たとほぼ全員が呆れ顔または無表情、嶋田と滝ノ上は今縁下何つったといった雰囲気、事情を知っている烏養は片手を額のあたりにやってまたかと盛大なため息、冴子は何々とキョトンとしている。
「いやあの兄さん」
しばし経ってからこの状況に耐えかねた美沙が遠慮がちに口を開いた。
「お手洗いくらい1人で行けるて、小さい子やあるまいし。」
もっともな話である。忘れがちだが美沙は一応15歳だ。周りは―木下と成田が特に強く―うんうんと頷く。
だがしかし次に放たれた力の言葉は過去最強クラスの威力を誇っていた。
「方向音痴が何言ってる。行く途中に変な奴に声をかけられたらどうするんだ。それに女子トイレの中でも変な女子がいるかもしれないんだぞ。」
関係者ほぼ全員が立ち尽くしていた。場所が場所でなかったらぶっ倒れていたかもしれない。対物ライフル級のとんでも発言だ。
力が何を言ってるのかわからない、男子どころか女子まで警戒してどうする将来仕事すらままならないではないかと突っ込みどころが多すぎて色々間に合わないという所である。
「繋心っ。」
日頃の耐性がない為たまりかねた嶋田と滝ノ上がババッと同期を振り返り、烏養は言うなと唸った。